「こら、誰か来ちゃうでしょう。次叫んだら、もう一度その可愛い口を塞いじゃうよ?」


 咄嗟に両手で自分の口を塞ぐ。
 私は声のボリュームを抑えて、八雲くんに抗議する。


「そんな大事なこと、なんではやく言わないんですか!」

「いつもなら、少し我慢すれば症状はおさまる。でも……なぜか、きみの血を飲みたいと思ったんだ」


 八雲くんは、先程とはうってかわって、真剣な表情をしている。


「いつもとは違う、酷い喉の渇き。吸血鬼としての本能が、僕を突き動かした。けしてきみが『純潔』の血だからじゃない。これだけは、命にかけても嘘じゃないと誓えるよ」


 ひゅっと喉が鳴った。

 ……あぁ、ついにバレてしまったのだ。
 稀血の中でも、最上級に甘い血である『純潔』。


《純潔の血の持ち主は、血を飲み干されて死ぬ運命にある》


 私はその『純潔』の血の持ち主だ。
 汗ばむくらいだった体温が、急激に無くなっていく感覚に眩暈がした。


「禁断症状なんて、これまで何度か出てる。その度に助けるふりをして、僕を手籠(てごめ)にしようとした人は多いけれど、一度たりとも血を飲んだ事はない」


 一瞬、八雲くんの瞳に暗い色が灯ったのは、気のせいじゃないはず。
 八雲くんも、今まで自分の体質で色々とあったのかもしれない。


「僕にきみを守らせてほしい。僕じゃ役不足だろうか」

「そんなことはっ! ……ない、ですけど」


 後半に行くにつれて、声が小さくなる。
 もう自分の判断が正しいのか、信じられなくなってきた。
 でもそんな私を見て、八雲くんは笑う。


「ふふっ、可愛い」

「か、可愛くないです!」

「可愛いよ。とても綺麗な瞳だ」


 そう言われてやっと、眼鏡をかけていない事に気づく。眼鏡を探せば、ベッドの端に置かれていた。
 手を伸ばしたけれど、途中で上から押さえつけられて惜しくも手が届かなかった。


「僕と二人きりの時は、眼鏡を外してほしいな」

「……嫌です」

「外してくれるの? 嬉しい」

「話を聞いてましたか!? と、とにかく! はやく私の上から退いてください!!」