血を飲んだら、即花嫁だなんて聞いてませんが?


 目をまん丸にして八雲くんを見つめれば、何故か微笑み返された。
 よろこんで! と反射的に言いそうになったが、すんでのところで踏みとどまる。


 私も、誰でも良いという訳じゃない。


 血を飲まなくても良いと言う、どこの聖人君子ですかと思わずにはいられない吸血鬼を探している。
 八雲くんが血を望むのならば、断わる他ない。


 押し黙る私をみて、八雲くんは「あぁでも」と付け加えた。


「きみの血を飲むつもりは無いよ」

「本当に!?」


 願っても無い条件に、目を輝かせて八雲くんを見れば今度は八雲くんが目を見開く。


「そうだけど。……風花ちゃん、やけに嬉しそうだね」

「あ、いや、えっと」


 普通の稀血の人間なら、こんなイケメンに血を飲んでもらえるなら箔がつく、と喜ぶところだ。
 私は真逆の行動しているから、怪しまれたのは仕方がない。


「あの、本当に私の血を飲まないんですか?」

「もちろん。僕にも事情があってね、血を飲まない条件でも良いのなら、ぜひパートナーになってほしい」


 ……パートナー制度は、ちゃんとした事情があれば解消できるルールがある。
 しかも、相手側が悪事をはたらいていた場合、在学中のパートナーがいない期間は、不問とされるのだ。

 八雲くんが約束を破ることがあれば、すぐに学園長へパートナー解消を申し出ればいい……なんだか好条件すぎて、もはや嘘かもしれない。
 でもこの機会を逃したら、本当に退学になってしまう。

 私は覚悟を決めた。


「その条件でお願いします!」

「じゃあこれからよろしくね、風花ちゃん」

「はい、よろしくお願いします」

「風花ちゃん、同い年なんだから敬語じゃなくても良いのに」

「それは追々……」

「ふふっ、楽しみにしてる」


 八雲くん話は終わったとばかりに、上半身を起こした。けれど、すぐにその綺麗な顔が苦しげに歪んだ。