「待ってください! 無理です!!」

「あれ、誰かわかっちゃった?」

「八雲くんの友達で、まだパートナーがいないなんて……真白恭也(きょうや)くんですよね!?」

「ご名答」


 ……絶対に無理だ!
 真白恭也くんは、八雲くんと対をなす人気で、パートナーの座を狙っている子が多い。


「『純潔』の血のきみを守るなら、駒は多い方がいいからね。もちろん、きみは僕だけの花嫁だから安心して」


 ちっとも安心できないし、まだ私は八雲くんの花嫁になったつもりはない。


「あの……その花嫁って、辞退とか」

「酷い、風花ちゃん。僕に野垂れ死ねって言うの?」

「うっ、そんなつもりじゃっ! せめて、血だけ提供する、みたいな。花嫁は別の人に──ひっ!」


 絶対零度の瞳、とはこの事かと思うくらい冷たい眼差しで私を射抜く八雲くんに、思わず悲鳴がもれた。


「ごめんね、よく聞こえなかった。もう一度言ってもらってもいい?」


 死ぬ……!
 もう一度言ったら、確実に私の命は無い。 
 というか、どこかに監禁されるのでは? と私の勘がそう言っている。


「な、なんでもないです!」


 すぅ、と暖かい春の陽気に氷が溶けていくように、部屋の温度が上がった気がした。

 八雲くんを見れば、笑みを浮かべている。

 
「そう? 風花ちゃんがそう言うなら、僕も深くは聞かないよ」

「ア、アリガトウゴザイマス」


 もう一度満足げに頷いた後、八雲くんはコーヒーを一口飲んで話を続けた。


「恭也は、今日は家の用事で休んでるから明日会いに行こう。ちょうど明日は休日だから、恭也の居場所は把握してるしね。そして恭也が条件をのんだら、すぐに学園長にパートナー申請をしに行けば、僕たちは退学を免れるってわけさ」

「なるほど……」

「僕達のタイムリミットは、明日の十八時。仮に恭也が条件をのまず、パートナーを断るなら僕達だけで申請に行けば良い」


 頭をコテンと傾けて「どうかな?」と聞いてくる八雲くん。


 ──お母さんとお父さんのためにも、退学は避けたい。
 でも、なんだかより危ない方向へ話が進んだ気がするのは……気のせいじゃないよね?


 目の前にいるのは吸血鬼じゃなくて、美しい人の皮を被った悪魔なんじゃないかと、そう思わずにはいられなかった。