「本当に、ごめん……。でもこれは、新奈を守るためなんだ。それだけは信じてほしい」
そう言うと、慧くんはタクシーを止めた。
運転手さんに先にお札のお金を渡すと、怪訝に思う私に申し訳なさそうな顔をして言った。
「ごめん。今日は送っていけないから、これで帰ってほしい」
「え……」
いつもはどんなに私が遠慮しても家の前まで送ってくれるのに――。
突き放すような態度の連続に、私は涙をこらえるのに必死だった。
そんな私をぐいっと急に引き寄せると、慧くんは強く抱き締めた。
「一週間も……誕生日にも会えないなんて、ほんとつらい」
「慧くん……」
「新奈が好きだ。心の底から」
振り切るように私を離すと、慧くんは押し込めるように私をタクシーに乗せた。
なにか言いたい。
けど、なんて声を掛けたらいいんだろう……。
迷っているうちに、「行ってください」と慧くんが伝えて、ドアが閉められた。
発車したのを見送ると、慧くんは踵を返して足早に夜の帰路の中に消えていった。



