カナトside
2年前の淋しそうに泣いてる女の子の姿を思い出す。
あの時のコトはずっと大切に心の中にしまっていた。
誰にも話したコトがない、僕がアイドルを目指した理由。
仕事終わりの帰り道で彼女の横顔を見た時、ハルカと話をした子だと思った。そう思った瞬間、僕の足は走り出していた。
まさかこんな形で会えるとは思わなかった。
「本当にあの子だったんだ...。僕を追ってくれてたんだ...。嬉しいな...」
大切な思い出の女の子とまた会えたコトで、僕の心は踊っていた。
その時スマホの着信音が鳴った。
「もしもし?」
「あー、俺」
電話をかけてきたのはハルカだった。
「ねぇハルカ聞いて!この前の握手会の後に話した子、僕がアイドルを目指す理由になってくれた子だったんだ!」
「...え?」
「2年前に会った時に、その子が泣いてたんだ。だから僕元気づけたくて、その子の為に歌ったんだ。それで泣いてる人を笑顔にしたいって思ってアイドルを目指したんだよね!」
「そうだったのか...。その時会ったのが玲那ってわけか...。あいつただのファンじゃなかったんだな...」
「ハルカは偶然玲那...さんと会ったんだっけ?」
「あぁ、俺とカナトが初めて会った場所で」
「えっ...」
僕は固まった。そんな偶然があるのかと思った。
僕とハルカと玲那さん。この3人はそれぞれが同じ場所で会っていた。
「スゴいなぁ...運命みたいだ」
「え?」
「ううん。また今度ゆっくり話すよ。僕たち漫画みたいな偶然で繋がってるみたいだから」
「ふーん?」
「そういえばハルカはどうして電話かけてきたの?」
「あー、それなんだけどさ...」
ハルカは言うのを悩んでいるのか、歯切れが悪かった。
「ハルカ?」
「...今日カナトが司会してたステージ、配信で見てたんだけどさ...」
「うん」
「その中の一つでアンケート紹介したコーナーあったじゃん?」
「うん、あったね」
「その中で紹介されてたReiさんって...」
「あぁ!それもビックリしたんだけど、そのReiさんって玲那さんだったんだよね!」
「...え?」
「さっき玲那さんを見かけて思わず追いかけちゃって、引き止めて話をしたんだ。その時Reiは自分だって話されたんだよ」
「玲那が...Reiさん?」
驚いた様子のハルカ。
ハルカはそれ以上何も言ってこなかった。
「ハルカ?」
「...あ、いや、ごめん。そっか...。それで玲那って今近くにいるのか?」
「ううん。もう別れたよ」
「あぁ...いや、そうだよな...うん...」
「そのReiさんと何かあるの?」
「いや、えっと...まぁ気にしないでくれ。教えてくれてありがとう。じゃあ、お疲れ」
「え、あ、うん」
そうして電話は切れた。
「どうしたんだろ?」
ハルカの様子も気になったが、僕は玲那さんと会えた喜びでいっぱいで、ハルカに何かを問うコトはしなかった。