「カ、カ、カナト!?」
「急にごめんなさい!えっと、僕の勘違いじゃないと良いんですけど、この前握手会に来てくれました...?」
「は、はい!行きました!」
急に推しが現れたコトにも驚いたが、この前の握手会に行ってたコトも覚えてくれていたなんて...。嬉しすぎて倒れそうになるのを抑える。
「2年前に僕と会ったコトがあるって...」
「えっ...はい...。そうなんです。2年前、カナトがギターを持って歌っている所を見つけて...歌を聴かせてくれたんです」
「2年前の8月...夕方の高台で...?」
「えっ...覚えてるんですか...?」
「ははっ...そっか...会えないと思ってた...でも、そっか...」
カナトは嬉しそうに笑う。
「君が居たから、僕はアイドルを目指したんだ」
「...え?」
「ずっとアイドルになりたかった。でも本気でなる為のあと一歩が踏み出せなかった。そんな時に泣いてる君と出会ったんだ。僕は泣いてる人を笑顔にしたいって心から思った。その時から僕は本気でアイドルを目指して、今こうしてアイドルになれたんだよ」
カナトは私を真っ直ぐ見て、伝えてくれる。
私の瞳から涙が溢れる。
「僕をアイドルにしてくれてありがとう」
伝えたいコトは沢山ある。
言わなきゃいけないコトは沢山ある。
それなのに、推しからそんな風に言ってもらえるコトが嬉しすぎて、幸せすぎて、言葉に詰まってしまった。
それでも必至に言葉を絞り出す。
「...ありがとうは...こっちのセリフです...。あの日、どれだけカナトに救われたか...。今までもどれだけカナトに救ってもらったか...。カナトが居てくれるから私は生きてます。本当にありがとう...」
カナトは優しく私の頭を撫でる。
「僕の歌声は君に届いてたんだね...。よかった...」
まさか自分が推しにこんな嬉しい言葉を言ってもらえる存在だと思わなかった。
あの日の思い出を大切に心の中にしまっていたのは、カナトも同じだった。
ずっと変わらない優しい笑顔で輝いているカナト。
多くの人を照らす太陽みたいなカナトが、私だけを見てくれるなんて夢物語だ。
でもそんな夢物語が今目の前で描かれていた。
私は今、世界で1番幸せなファンだ。