第五話
土屋「僕、井上さんのことが好きみたいだ」
久美子、固まって声も出ない。
土屋「返事はいらないから。好きでいさせてくれればいいから。じゃ」
久美子、固まったまま、帰っていく土屋の背中を見る。
久美子(えええええええ)
〇久美子の部屋
久美子(土屋君が、私を好き...?)
呆然、とした顔。
久美子(私なんかのどこがいいのか...)
久美子(はっ、私の色香に迷って?!)
久美子(あー、ないない。しょうもな…)
久美子(今日、土屋君、私のこと好きな素振りしてたかな…)
今日のデートを振り返ってみる。
久美子(カフェで座るイスひいてくれたり)
(大きな荷物は持ってくれたり…)
久美子(でも、ホストだからスマートにそういうことするんだと思ってた)
土屋君の告白した顔を思い出す。
『好きみたいだ』
久美子、かあっと顔が赤くなる。
久美子(土屋君の考えてること、わかんない…)
(いや、他の男子のことだってわかんないけど)
(土屋君は抜きんでてわからないよ…)
部屋の窓を開けて、冷気でほてった頬をひやす。
ため息をつく久美子
久美子(明日、どんな顔すればいいのかな…)
〇土屋の家 キッチンで朝食を作る薫
薫「マー、ご飯できたよ。今日は、マーの好きなオムレツ♪」
朝からテンションが高く、ご機嫌の薫。
土屋「ああ、ごめん兄さん。今日、急ぐからもう行くね」
リビングから玄関に向かう土屋。
*土屋の制服部分だけ見せる。顔は隠して
土屋の顔を見て、固まる薫。
薫「マー…?!」
〇学校に行く道の途中。
久美子、独りで登校している。前方にいた生徒が振り返る。
土屋「井上さん。おはよう」
髪の毛をあげて、コンタクトしている土屋。ホストバージョンのキラキラ人。
久美子「ど、どうしたの?学校じゃ目立ちたくないって言ってたのに」
土屋「…僕、い、井上さんにふさわしい男になりたくて」
土屋、、赤くなりながらぼそっと言う。
久美子「う」
伝染したように、久美子も赤くなる。
久美子「ふ、ふさわしいなんて、土屋君、変なこと言うなー」
とって付けたように笑ってみる。
土屋「ほ、本気だから」
「僕といることで、井上さんの趣味が悪い、なんて言われるの、嫌だし」
久美子「いや、でも…ええ~…」
恰好いい生徒がいる、と女生徒がちらちら、土屋を見る。
久美子(ど、どうなることやら…)
〇教室
久美子 N 突然キラキラ星人になった土屋君を、クラスメートはどう対応したかと言
うと
久美子 N 女子はこんな感じ
女子A「なにー、土屋、実はイケメンだったんじゃん」
女子B「ちょっと、やばいって。あれはやばいよ」
女子C「ちょっと誘ってみる?」
女子C「あのさー。土屋君、今日、お昼 一緒に食べない?」
土屋、女子をじっと見つめて。
土屋「ごめん。…僕、好きな人いるから、そういうの、できないんだ…」
ぼそぼそと自信なさげに、喋る。
女子C、かあっと赤くなる。女子A,Bのところに戻る。
女子C「なんか、すごい可愛い犬みたいっ…!好きな人がいるから駄目だって」
女子A「うあー、フリーじゃないんだ。残念!」
久美子N と、まあ、大体こんな感じで
久美子N 男子は、というと
男子A「なんだ、土屋、チャラチャラしやがって。気に食わねえな」
男子B「急にイケメンになったからってよー」
男子C「ちょっと締めようぜ」
ガタイのいい男子A、老け顔。土屋の机に手をつき、土屋をにらみつける。
男子A「おい、土屋。お前よう…あ?お前、誰かに似てるな」
男子B「そういえば…薫先輩に…あ、先輩ってたしか土屋…」
土屋「えっと。土屋薫は、僕の兄だけど」
男子A「げえっ、お前、薫先輩の、キングの弟かよ?!」
男子B「マジか…やっべー…」
男子C「土屋君、ごめんね。俺らのこと、気にしないで。ははは、仲良くやろうよ」
久美子N こんな感じで。薫さんの謎の威力で何事もない感じで
〇昼休み 屋上
人気のないフェンスの近くで、久美子と土屋がお昼を食べている。土屋はサンドイッチ。
久美子は手作り弁当。
久美子「え、薫さん、うちの学校の卒業生なの?」
土屋「うん。なんか、よく知らないけど、兄さん学生時代、やんちゃしてて。なんかこの
辺りの元締めだったらしくて。今もOBとしてつきあいがあるみたい。いま
だに兄さんのこと、キングって呼ぶ人いるからね」
久美子「あっ、思い出した。土屋君のとこに行こうとしてナンパしてきた人、キングがど
うとか言って逃げて行ったよね。薫さんのことだったんだ」
久美子「すごい…ただものじゃないね。薫さん」
土屋「うん…複雑だけど、身内でよかった…」
土屋。サンドイッチを食べ終えて
土屋「あの…お昼、大下さんと食べたかった?」
久美子「あ、めぐちゃん?」
回想のめぐみ「お昼?いいよ、あたし、部活の子と食べるからー」
にやっとして久美子にウインク。
久美子(めぐちゃん、きっとなんか勘違いしてる!)
土屋、久美子の返事を首をかしげて待っている。
久美子「えっとあの…部活の子と食べるから、大丈夫って…」
土屋「そう。よかった」
ほっこり、笑う土屋。
久美子(うう…なんか、土屋君には、びしっと言えないんだよね…)
(今まで、告白されても、びしばし断ってきたのに…なんでかなあ)
土屋「これ、あげる」
土屋から、飴玉を差し出される。にっこり。
久美子「あ、ありがとう…」
苦笑いして、受け取る。
久美子(うーん、どうすんの、私?!)
〇街の老舗デパート
久美子、放課後。制服で、デパートに来てる。
紅茶専門店で紅茶を選んでいる。
薫「あれ、久美子ちゃんじゃない?」
ラフな恰好の薫。パーカーとジーンズ。それでも金髪イケメンで目立つ。
久美子「あ、薫さん!」
薫「お買い物?」
久美子「はい。母が、ここの紅茶が好きで。よく学校帰りに買って来させられるんです」
薫「あー。ここの美味しいもんね。俺もここのが一番好きで常連。このデパートにしかないんだよね。電車で来たよ」
薫、久美子をにこにこしながら見つめる。
久美子「…?」
薫「よかったら、お茶しない?」
〇デパート内のティールーム
クロスのかかった丸テーブルに向かい合って座っている薫と久美子。
それぞれの前にケーキとティーカップが並んでいる。
薫「こないだもこうやってお茶とケーキを楽しんだよね。久美子ちゃんと俺はそういう運
命なのかな」
久美子「そんな、運命なんて」
くすっと笑う久美子。
薫、ふっと笑って
薫「いやいやあるでしょう、運命。ちなみに、マーの運命を変えたのも、久美子ちゃんかな?」
久美子、ドキリとしてケーキを食べる手が止まる。
久美子「えっと、その…」
薫「日曜日、久美子ちゃんとマー、ベイビーちゃん達のバースデイプレゼント選びに行っ
てくれたんでしょ。そしたら、次の日、マーが髪の毛あげて、コンタクトにして学校
に行ってた。マーの心境の変化は、久美子ちゃんのせいでしょ」
久美子、汗がたらりと。
久美子「…」
久美子「…」
久美子、かなり迷うが、言うことにする。
久美子「土屋君に…、告白、されました」
薫「!」
薫「そうだったんだ~。よかった、兄として心配してたんだよ。マー、恋愛不感症みたい
になってたからさあ」
ニコニコする薫。つられて、久美子もほっとする、が、薫の言葉が気になる。
久美子「えっと恋愛不感症って?」
薫「うん。実は、そのあたりを知っててもらいたくて、久美子ちゃんをお茶に誘ったんだ
よね」
久美子「はあ…」
薫「久美子ちゃんは、どうしてマーが、高校で眼鏡して前髪おろしたダサい恰好してんの
か、知ってる?」
久美子「あの、ホストやってると愚痴とか悩み事を土屋君聞かされるから、疲れちゃって、
その反動で、学校じゃ静かにしていたいって…」
薫「そう静かにしていたい。でも、だったら別に顔まで隠さなくてもいいでしょ、マーが
あんな恰好するのは、もうひとつ理由があるんだ」
久美子「もうひとつの、理由」
薫「そう。これ、マーの中学時代の写真」
薫、スマホをいじって、久美子に見せる。
スマホの写真には、女子生徒に囲まれたイケメンバージョンの土屋。
久美子「すごい。…はべらせてる」
薫「そう。中学時代のマーは、いつも女子に囲まれてたよ。あのルックスで、話しかけやすいところがあるから、女子が寄ってきちゃうんだ。しょっちゅう、悩み相談とか、恋の相談とか受けてたな。マーもそんな自分がまんざらじゃなかったみたいだった。本もよく読むから、同級生よりいいアドバイスをしてやれるんだよね。…マーは、少し得意になってた、と思う」
久美子、先を促すようにうなづく。
薫「マーが中三の時、マーに特別べったりしてくる女子がいた。マーは、自分の恋愛にはあんまり興味がなくて。自分から特定の彼女を作ったりしなかった。でもその彼女はいつも一緒にいるから、自分は特別だと思ったみたいなんだよね。なんていうか…自称彼女みたいに、なった」
久美子、黙って聞く。
薫「マーからしたら、そんな勝手な、と思ったんだろうね。少し、彼女を突き放したんだ。あくまでも、やんわりと。でも、それがよくなかった。マーの側にいられない、となったその子は…その日、家出したんだ」
久美子「え…。」
薫「詳しくは明かされなかったけど、家出した間に悪い連中につかまったり、いろいろあったらしい。しばらくして実家に戻ってきたけど、その時にはもう悪い噂が立ってて」
薫「彼女を皆が遠巻きにするような状況が続いてね。彼女は荒れて…マーに言ったんだ」
回想のコマ。 派手なメイクの女子がきつい目をして叫んでる。
彼女『こんな風になったのは…、全部、正幸のせいなんだからね!』
久美子「そんな…!」
薫「マーは、すっかり気落ちして、ね。自分の中途半端な行動がいけなかったんだ、って
自分を責めた。それで、高校から変わろうとした」
久美子「それじゃ。あの眼鏡と前髪は」
薫「そう。やたらと、女子生徒にアテにされないように、って女子避けを考えてやったル
ックスなんだよね。まあ、効果は絶大で、見事に陰キャになったってわけ」
久美子「そうだったんですか…!」
薫「うん。だから、久美子ちゃんも、ちょっと気を付けてあげて。マーに女子が寄ってき
て。無茶しないように。…っていうか、久美子ちゃん、マーの告白に返事、した?」
久美子「う。それが、まだなんです…その、好きでいさせてくれればいいから、って言わ
れてまして…」
薫「あ、そうなんだ。へー!」
久美子「寄ってくる女子に関しては…好きな人いるから、ってびしっと断ってるみたいで
した」
薫「ほほー。あいつも、少しは成長したかあ」
薫「まあそんなわけで。兄バカの俺としては、マーの幸せをいつも願ってるから。援護射
撃させてもらいました。マーをよろしくね」
「もちろん、決めるのは久美子ちゃんだけどね!」
「さ、食べて食べて」
久美子「はあ…」
久美子、複雑な表情。
〇駅前。ホストバージョンの土屋、制服で帰宅するところ。
その姿を他校の制服を着た女子が見つめている。
巻き髪で、メイクばっちり。派手な顔立ち。(さっきの回想シーンと同じ顔)
女生徒「正幸…?」
土屋「僕、井上さんのことが好きみたいだ」
久美子、固まって声も出ない。
土屋「返事はいらないから。好きでいさせてくれればいいから。じゃ」
久美子、固まったまま、帰っていく土屋の背中を見る。
久美子(えええええええ)
〇久美子の部屋
久美子(土屋君が、私を好き...?)
呆然、とした顔。
久美子(私なんかのどこがいいのか...)
久美子(はっ、私の色香に迷って?!)
久美子(あー、ないない。しょうもな…)
久美子(今日、土屋君、私のこと好きな素振りしてたかな…)
今日のデートを振り返ってみる。
久美子(カフェで座るイスひいてくれたり)
(大きな荷物は持ってくれたり…)
久美子(でも、ホストだからスマートにそういうことするんだと思ってた)
土屋君の告白した顔を思い出す。
『好きみたいだ』
久美子、かあっと顔が赤くなる。
久美子(土屋君の考えてること、わかんない…)
(いや、他の男子のことだってわかんないけど)
(土屋君は抜きんでてわからないよ…)
部屋の窓を開けて、冷気でほてった頬をひやす。
ため息をつく久美子
久美子(明日、どんな顔すればいいのかな…)
〇土屋の家 キッチンで朝食を作る薫
薫「マー、ご飯できたよ。今日は、マーの好きなオムレツ♪」
朝からテンションが高く、ご機嫌の薫。
土屋「ああ、ごめん兄さん。今日、急ぐからもう行くね」
リビングから玄関に向かう土屋。
*土屋の制服部分だけ見せる。顔は隠して
土屋の顔を見て、固まる薫。
薫「マー…?!」
〇学校に行く道の途中。
久美子、独りで登校している。前方にいた生徒が振り返る。
土屋「井上さん。おはよう」
髪の毛をあげて、コンタクトしている土屋。ホストバージョンのキラキラ人。
久美子「ど、どうしたの?学校じゃ目立ちたくないって言ってたのに」
土屋「…僕、い、井上さんにふさわしい男になりたくて」
土屋、、赤くなりながらぼそっと言う。
久美子「う」
伝染したように、久美子も赤くなる。
久美子「ふ、ふさわしいなんて、土屋君、変なこと言うなー」
とって付けたように笑ってみる。
土屋「ほ、本気だから」
「僕といることで、井上さんの趣味が悪い、なんて言われるの、嫌だし」
久美子「いや、でも…ええ~…」
恰好いい生徒がいる、と女生徒がちらちら、土屋を見る。
久美子(ど、どうなることやら…)
〇教室
久美子 N 突然キラキラ星人になった土屋君を、クラスメートはどう対応したかと言
うと
久美子 N 女子はこんな感じ
女子A「なにー、土屋、実はイケメンだったんじゃん」
女子B「ちょっと、やばいって。あれはやばいよ」
女子C「ちょっと誘ってみる?」
女子C「あのさー。土屋君、今日、お昼 一緒に食べない?」
土屋、女子をじっと見つめて。
土屋「ごめん。…僕、好きな人いるから、そういうの、できないんだ…」
ぼそぼそと自信なさげに、喋る。
女子C、かあっと赤くなる。女子A,Bのところに戻る。
女子C「なんか、すごい可愛い犬みたいっ…!好きな人がいるから駄目だって」
女子A「うあー、フリーじゃないんだ。残念!」
久美子N と、まあ、大体こんな感じで
久美子N 男子は、というと
男子A「なんだ、土屋、チャラチャラしやがって。気に食わねえな」
男子B「急にイケメンになったからってよー」
男子C「ちょっと締めようぜ」
ガタイのいい男子A、老け顔。土屋の机に手をつき、土屋をにらみつける。
男子A「おい、土屋。お前よう…あ?お前、誰かに似てるな」
男子B「そういえば…薫先輩に…あ、先輩ってたしか土屋…」
土屋「えっと。土屋薫は、僕の兄だけど」
男子A「げえっ、お前、薫先輩の、キングの弟かよ?!」
男子B「マジか…やっべー…」
男子C「土屋君、ごめんね。俺らのこと、気にしないで。ははは、仲良くやろうよ」
久美子N こんな感じで。薫さんの謎の威力で何事もない感じで
〇昼休み 屋上
人気のないフェンスの近くで、久美子と土屋がお昼を食べている。土屋はサンドイッチ。
久美子は手作り弁当。
久美子「え、薫さん、うちの学校の卒業生なの?」
土屋「うん。なんか、よく知らないけど、兄さん学生時代、やんちゃしてて。なんかこの
辺りの元締めだったらしくて。今もOBとしてつきあいがあるみたい。いま
だに兄さんのこと、キングって呼ぶ人いるからね」
久美子「あっ、思い出した。土屋君のとこに行こうとしてナンパしてきた人、キングがど
うとか言って逃げて行ったよね。薫さんのことだったんだ」
久美子「すごい…ただものじゃないね。薫さん」
土屋「うん…複雑だけど、身内でよかった…」
土屋。サンドイッチを食べ終えて
土屋「あの…お昼、大下さんと食べたかった?」
久美子「あ、めぐちゃん?」
回想のめぐみ「お昼?いいよ、あたし、部活の子と食べるからー」
にやっとして久美子にウインク。
久美子(めぐちゃん、きっとなんか勘違いしてる!)
土屋、久美子の返事を首をかしげて待っている。
久美子「えっとあの…部活の子と食べるから、大丈夫って…」
土屋「そう。よかった」
ほっこり、笑う土屋。
久美子(うう…なんか、土屋君には、びしっと言えないんだよね…)
(今まで、告白されても、びしばし断ってきたのに…なんでかなあ)
土屋「これ、あげる」
土屋から、飴玉を差し出される。にっこり。
久美子「あ、ありがとう…」
苦笑いして、受け取る。
久美子(うーん、どうすんの、私?!)
〇街の老舗デパート
久美子、放課後。制服で、デパートに来てる。
紅茶専門店で紅茶を選んでいる。
薫「あれ、久美子ちゃんじゃない?」
ラフな恰好の薫。パーカーとジーンズ。それでも金髪イケメンで目立つ。
久美子「あ、薫さん!」
薫「お買い物?」
久美子「はい。母が、ここの紅茶が好きで。よく学校帰りに買って来させられるんです」
薫「あー。ここの美味しいもんね。俺もここのが一番好きで常連。このデパートにしかないんだよね。電車で来たよ」
薫、久美子をにこにこしながら見つめる。
久美子「…?」
薫「よかったら、お茶しない?」
〇デパート内のティールーム
クロスのかかった丸テーブルに向かい合って座っている薫と久美子。
それぞれの前にケーキとティーカップが並んでいる。
薫「こないだもこうやってお茶とケーキを楽しんだよね。久美子ちゃんと俺はそういう運
命なのかな」
久美子「そんな、運命なんて」
くすっと笑う久美子。
薫、ふっと笑って
薫「いやいやあるでしょう、運命。ちなみに、マーの運命を変えたのも、久美子ちゃんかな?」
久美子、ドキリとしてケーキを食べる手が止まる。
久美子「えっと、その…」
薫「日曜日、久美子ちゃんとマー、ベイビーちゃん達のバースデイプレゼント選びに行っ
てくれたんでしょ。そしたら、次の日、マーが髪の毛あげて、コンタクトにして学校
に行ってた。マーの心境の変化は、久美子ちゃんのせいでしょ」
久美子、汗がたらりと。
久美子「…」
久美子「…」
久美子、かなり迷うが、言うことにする。
久美子「土屋君に…、告白、されました」
薫「!」
薫「そうだったんだ~。よかった、兄として心配してたんだよ。マー、恋愛不感症みたい
になってたからさあ」
ニコニコする薫。つられて、久美子もほっとする、が、薫の言葉が気になる。
久美子「えっと恋愛不感症って?」
薫「うん。実は、そのあたりを知っててもらいたくて、久美子ちゃんをお茶に誘ったんだ
よね」
久美子「はあ…」
薫「久美子ちゃんは、どうしてマーが、高校で眼鏡して前髪おろしたダサい恰好してんの
か、知ってる?」
久美子「あの、ホストやってると愚痴とか悩み事を土屋君聞かされるから、疲れちゃって、
その反動で、学校じゃ静かにしていたいって…」
薫「そう静かにしていたい。でも、だったら別に顔まで隠さなくてもいいでしょ、マーが
あんな恰好するのは、もうひとつ理由があるんだ」
久美子「もうひとつの、理由」
薫「そう。これ、マーの中学時代の写真」
薫、スマホをいじって、久美子に見せる。
スマホの写真には、女子生徒に囲まれたイケメンバージョンの土屋。
久美子「すごい。…はべらせてる」
薫「そう。中学時代のマーは、いつも女子に囲まれてたよ。あのルックスで、話しかけやすいところがあるから、女子が寄ってきちゃうんだ。しょっちゅう、悩み相談とか、恋の相談とか受けてたな。マーもそんな自分がまんざらじゃなかったみたいだった。本もよく読むから、同級生よりいいアドバイスをしてやれるんだよね。…マーは、少し得意になってた、と思う」
久美子、先を促すようにうなづく。
薫「マーが中三の時、マーに特別べったりしてくる女子がいた。マーは、自分の恋愛にはあんまり興味がなくて。自分から特定の彼女を作ったりしなかった。でもその彼女はいつも一緒にいるから、自分は特別だと思ったみたいなんだよね。なんていうか…自称彼女みたいに、なった」
久美子、黙って聞く。
薫「マーからしたら、そんな勝手な、と思ったんだろうね。少し、彼女を突き放したんだ。あくまでも、やんわりと。でも、それがよくなかった。マーの側にいられない、となったその子は…その日、家出したんだ」
久美子「え…。」
薫「詳しくは明かされなかったけど、家出した間に悪い連中につかまったり、いろいろあったらしい。しばらくして実家に戻ってきたけど、その時にはもう悪い噂が立ってて」
薫「彼女を皆が遠巻きにするような状況が続いてね。彼女は荒れて…マーに言ったんだ」
回想のコマ。 派手なメイクの女子がきつい目をして叫んでる。
彼女『こんな風になったのは…、全部、正幸のせいなんだからね!』
久美子「そんな…!」
薫「マーは、すっかり気落ちして、ね。自分の中途半端な行動がいけなかったんだ、って
自分を責めた。それで、高校から変わろうとした」
久美子「それじゃ。あの眼鏡と前髪は」
薫「そう。やたらと、女子生徒にアテにされないように、って女子避けを考えてやったル
ックスなんだよね。まあ、効果は絶大で、見事に陰キャになったってわけ」
久美子「そうだったんですか…!」
薫「うん。だから、久美子ちゃんも、ちょっと気を付けてあげて。マーに女子が寄ってき
て。無茶しないように。…っていうか、久美子ちゃん、マーの告白に返事、した?」
久美子「う。それが、まだなんです…その、好きでいさせてくれればいいから、って言わ
れてまして…」
薫「あ、そうなんだ。へー!」
久美子「寄ってくる女子に関しては…好きな人いるから、ってびしっと断ってるみたいで
した」
薫「ほほー。あいつも、少しは成長したかあ」
薫「まあそんなわけで。兄バカの俺としては、マーの幸せをいつも願ってるから。援護射
撃させてもらいました。マーをよろしくね」
「もちろん、決めるのは久美子ちゃんだけどね!」
「さ、食べて食べて」
久美子「はあ…」
久美子、複雑な表情。
〇駅前。ホストバージョンの土屋、制服で帰宅するところ。
その姿を他校の制服を着た女子が見つめている。
巻き髪で、メイクばっちり。派手な顔立ち。(さっきの回想シーンと同じ顔)
女生徒「正幸…?」



