第一話 

N 放課後 私は、ピンチに直面していました。

〇放課後の誰もいない教室 

教室の隅で、主人公の井上久美子(髪の毛は長くストレートで華奢な体つき)を、
追い詰めるように立っている麻田京子(ショートボブで目つきがきつい)

麻田「井上さんって、田中君のことが好きなんでしょ?」
久美子「え…何とも思ってないけど…国語の教科書貸しただけ…」
麻田「ほら、そうやって話すきっかけ作ろうとしてるじゃん」
久美子「あの、ほんとに…」

久美子(そんなんじゃない、って言ってもわかってもらえそうにないなあ…)

久美子「あの、私、あんまり恋とか興味がなくて…」
麻田「はあ?あたしのこと馬鹿にしてんの?!」
久美子「え…ええっ?」

久美子(どうしてそうなるの~!)

麻田「井上さんみたいなタイプって、いるだけで男をさらっていくよね!
   とにかく田中君には近づかないでね!」
久美子「うん…わかった…」

教室を出ていく麻田 同時に、体の力が抜けてイスに座り込んでしまう久美子

久美子(はあ~こわかった~)

すると、教室の入口に人影
クラスメートの土屋正幸が、入ってくる。
(前髪が顔の半分を覆っている上に、眼鏡をかけている。背は高く細身)

久美子「あ、土屋君…」

土屋、ぺこっと会釈して、机の中の教科書を取って、また教室から出ていく。

久美子「忘れ物取りにきたのか…今の…聞かれたかな…」

〇駅前のカフェ

久美子と同じクラスで親友のめぐみ(ショートカットでボーイッシュな感じ)
向かい合ってカフェでお茶してる

めぐみ「はあーそりゃ、こわかっただろうねえ」
久美子「ほんとだよ。もう、マジこわかったよ~ あたし、田中君のこと、何とも思って
   ないのに~」
   
めぐみ「でも、好きな奴が可愛い子と喋ってたら気が気じゃないんだよ。麻田の
    気持ちも少しわかるかな」
久美子「ええ~、めぐちゃん心広いね…私なんか、大したことないんだから気にしなくて
    もいいのにな…」
めぐみ「でもさ、久美子、先月も佐久間先輩に告られてたじゃん」
久美子「あー。あれは、ただ髪の毛の長い子だったら誰でもよかったみたいよ」
めぐみ「そう?」
久美子「うん。丁寧にお断りしました」

めぐみ「お試しでつきあったりしないもんね、久美子は。そんなんじゃ恋愛偏差値あがん
    ないよ?」
久美子「あがらなくていいよ~私は平和に暮らしたいの」
めぐみ「もったいないなあ。あたし、久美子みたいに告られたら、ぜったいつきあっちゃ
    うけどな」
久美子「うーん…まだ誰ともつきあったことないし…やっぱりつきあうんなら、自分から
    好きになった人と、かなあ」
めぐみ「いないじゃん、好きな人」
久美子「そうなんだよね~ どうも関心が向かなくて。
    あっ、そういえば。土屋君に、麻田さんに絡まれてたの聞かれたかも」
    
めぐみ「え?あの陰キャの土屋?」
久美子「そう」
めぐみ「ああ、土屋なら大丈夫でしょ。大人しいから、誰にも言わないんじゃない。
   佐藤とか玉木とかなら騒いで田中の耳に入って、こじれるかもしれないけど」
   
久美子「そうだよね。土屋君でよかった…あ、明日の図書委員、土屋君とだ」
めぐみ「あ、ちょうどよかったじゃん。誰にも言わないように頼んだら」
久美子「うん…会話が成立すればいいけど」
めぐみ「そうだよね。土屋、陰キャを貫いてるからね。休み時間は本読んでるし。クラス
    メートと雑談してんの見たことない。せっかく背が高いのに、もったいないわー」
久美子「ほんとだね。ちょっと変わってるよね」

〇翌日 

理科の実験で、出席番号順に班を組まされる。久美子は麻田京子の隣に。

久美子「あ、麻田さん、そのビーカー取って…」

麻田、思い切りふいっと横を向いて無視。

久美子(うわーきまずい~…)

〇放課後の図書室
久美子、図書委員の当番として、カウンターに座ろうとする。
すると、先に土屋がカウンターに座っていた。本を読んでいる。図書室にはほとんど誰も来ていない。

久美子「あ、土屋君…」

土屋、ちらっと久美子を見て会釈する。

久美子(いきなり、昨日の、聞いてた?とかきくのも変かなあ…)

ふっと、さっき麻田に無視されたのを思い出す。

久美子(うう…明日も美術で出席番号順なんだよね。今日みたいなのまたあるのかな…
    いやだな~…)

久美子「はあ」
土屋「…どうかしたの」

久美子、目をみはる

久美子(土屋君がしゃべった!!)

土屋「さっきから…三回も、ため息ついているよ」
久美子「本当?あー、ちょっとね...」
土屋「あの…麻田さんのこと?」

久美子(核心ついてくる!ええー、土屋君ってこんなキャラなの?!)

久美子「うん…、昨日の、聞いてた?」
土屋「うん。声おっきかったから。…大変だね」

久美子「うん、まあ…出席番号隣だから、何かとね…でも、どうしようもないし」
土屋「…」
ちょっと考えてる風。

久美子「ま、私は田中君に気がないし。それを貫いていたら麻田さんも気がすむんじゃないかな」

半分諦めの表情で、言う久美子。

土屋「それだと、時間かかるよね。だったら」
久美子「だったら?」
土屋「うん。麻田さんはさ、井上さんはに上から見られてるような気がしてカチンときて
   るんだよ。恋に関心がない、とか言ったから」
久美子「え、上からなんて、そんなつもりない」
土屋「そうだよね。でも麻田さんにはそう聞こえちゃうんだ。自分が恋に振り回されてる
   から。だから、井上さんも、麻田さんと同じステージにいることを伝えればいい」

久美子「…どういうこと?」

土屋「恋に関心あるフリすればいいんだ。好きな人がいる、とか言って」
久美子「…ほんと?」
土屋「うん。多分。それで安心して、態度も変わると思う」
久美子「そんなもんかなあ…でも、土屋君、なんでそんなことわかるの」
土屋「うん...ちょっと仕事柄、こういうことにぶつかる事が多いから」
久美子「仕事柄?」

生徒の一人がカウンターに来る。

生徒A「借りたいんですけど」
久美子「はい、ここに記入してください」

〇学校からの帰り道 住宅街を歩く久美子

久美子(うーん...まさか、土屋君からアドバイスされるとは。
  びっくりしたな...あんなに喋るんだなー。なんか誰も知らない土屋君を知って
ちょっと得した気分、みたいな...)

麻田の顔がちらりとよぎる。

久美子(同じステージか...うまくいくかな...)

〇翌日 休み時間、トイレで麻田と会う

目が合うが、麻田に、ぷいっとされる。

久美子(同じステージ...!)

久美子「あの、麻田さん!」
麻田「...何?」

きっ、とにらまれる。

久美子(うわ、こわいよ~!)

久美子、気を取り直して。

久美子「あのね、伝えたいことがあって。私、好きな人ができたから!」
麻田「え?」
久美子「あの、恋に関心なんかない、って言ってたけど、できたの、好きな人」
麻田「それ、誰?」

久美子(し、しまったその返しは考えてなかった!)

久美子(えーと、一番あたりさわりのない人..目立つ子は他の子が狙ってたりするから...
    えーと....)

久美子「つ、土屋君!」
麻田「へ?あの、陰キャの土屋?」
久美子「そうなの!図書委員で一緒だから、だんだん好きになったっていうか」
麻田「そうなんだ。へえー…」

徐々に、麻田の顔が明るくなっていく。

麻田「やだー。それならそうと、早く言ってよ!井上さんって趣味変わってるね。でも
   陰キャの土屋だと競争相手がいなくていいねー」
久美子「あ、あはは」
麻田「じゃあねー」

ご機嫌な感じでトイレを去る麻田。

久美子(すごい!土屋君の言う通りだった...!成功した!)


〇教室

休み時間中なのでざわついている教室

久美子(土屋君にお礼言わなくちゃ。...あれ?)

土屋の席が空いている。

久美子(土屋君...お休みなのかな)



〇放課後 繁華街 派手なネオンのお店がいっぱい 


久美子(うーん...土屋君の家、ってこの辺りのはずなんだけどな...土屋君のおうちってお店
    とかやってるのかな? )

辺りをきょろきょろ見回す久美子。

久美子(世界史のノート、あるといいと思うんだよね...明日、小テストあるし
    っていうか、昨日のお礼、学校じゃしにくいし。ちょうどいいと思ったんだけど
    …うーん、どこだ、土屋君の家は)
  
派手な恰好で、柄の悪い男二人組が近づいてくる。

ナンパ男A「どうしたのー、迷子になってんのー?」
ナンパ男B「お兄さんたちと遊ぼうよ。いいとこ連れてってあげる」

久美子、蒼白になって身構える。

ナンパ男A「ほら、来なって」

男、久美子の腕をつかんで引っ張って行こうとする。

久美子「やっ...離してください!」

すっとナンパ男の手をつかみあげる、一人の男。

男(髪の毛はオールバッグで、開襟シャツ、シルバーのスーツ。いかにも夜の街に似合う感じ 顔はまつ毛が長く、整っている すごいイケメン )
「離せよ。嫌がってるだろ」

ナンパ男A「なんだよっ」
ナンパ男B「あ!こいつ、やばいよ。キングんとこの奴だ」
ナンパ男A「マジかよ。ちっ...行こうぜ」

ナンパ男たち、去る。

男、久美子に向き合う。

男「大丈夫?」

久美子、キラキラのイケメンに話しかけられ、少し顔が赤い。

久美子「は、はいっ、ありがとうございましたっ...」
男「なんで敬語...井上さん、なんでこんなとこにいるの?」
久美子「なんで名前知って...」
男「え?わかんないの?僕だよ。えっと」

男、スーツのパンツから眼鏡を取り出して、かける。オールバッグの髪の毛も前におろす。

久美子「土屋君?!」

N そう、このキラキラのイケメンさんは、なんと土屋君だったのです...!