新月に薔薇は枯れる(The rose dies at the new moon)ーー柊くんの隠しごと

「-ー手品ですか」

椿が薔薇を見つめたまま、震えた声で訊いてくる。

「どう思う?」

「あの、ヴァンパイアは本当に居るんですか」

「椿。もし俺がヴァンパイアだったとしても、一緒にいてくれるか」

俺は椿に隠しごとはしたくないと思い始めていた。

薔薇を枯らす自分の手を椿にだけは見せてもいいと思った。

拒絶されたらと内心、穏やかではなかった。

不安と緊張と孤独と言葉にできない感情が頭の中を渦巻いていた。

椿は薔薇が枯れていく様子を、更に10数秒みつめて、やっと顔を上げた。

「わたし。紫陽花の前でわたしを励ましてくれた柊さんを信じます。何も聞きません、柊さんは柊さんだと信じます」

俺の手の中。

薔薇はカーマイン色を鮮やかに残したまま、カラカラに渇いていく。

椿の瞳には怯えた様子を感じない。

俺はホッとして、フッと笑った。