新月に薔薇は枯れる(The rose dies at the new moon)ーー柊くんの隠しごと

「ドライフラワーにするには、ちょっと開いていますね」

椿は薔薇事件の捜査で、下調べや実際の薔薇を観たりして、独自で勉強したのだろう。

「綺麗な色なのに、もったいないですね」

「そうだな」

今日はやけによく喋る。

休み時間の話を聞いたか、観ていたのかもしれない。

「椿。もし誰か気になる奴がいないなら、これからも一緒に帰らないか」

思い切って言ってみた。

「いいんですか? わたしなんかで」

椿は丸い目を更に大きく開いて、俺を見上げた。

「椿がいいんだ。椿と一緒に帰りたいんだ」

「はい」

椿は声を震わせ、短く答えた。

「椿。よく観ていて」

俺は園芸部部長からもらった薔薇に、そっと手を触れた。

スーッと静かにゆっくり、息を吸う。

椿は俺の指と薔薇を黙って見つめている。

薔薇の水分がゆっくりと抜けていく。

俺の手の中で薔薇が色を保ったまま、枯れていく。