「柊さん、遅いですよ」

俺の姿を見つけて、大きく右手を振り、到着をアピールした。

椿の「1、2、3」のかけ声で紫陽花を観た。

紫陽花は萎れていた。

色褪せた紫陽花の花を見つめて、椿は「こめんね、熱かったね」と語りかけた。

椿が泣いている気がして、椿の頭をポンポンと撫でた。

「柊さん、嬉しかったです」


「ん?」

何のことだかわからなかった。

「『地味子』と呼ぶな、と怒ってくれたこと」

あの時、俺は声を荒らげたつもりはなかった。

「廊下にまで声が響いていました」

怒りに任せ、かなり大きな声を出していたようだ。

道理で教室がピリついたわけだ。

「知り合いがへんな呼び方をされているのが、気にいらなかっただけだ」

「でも、嬉しかったです。凄く嬉しかったです」

俺の目をしっかり見て話す椿の笑顔が眩しかった。

椿の言葉が照れくさくて、カーッと体が火照っていくのがわかった。