○学校・教室(放課後)
せわは中間テストに向けて勉強中。
美波「せわちゃん帰らないの〜? スタボの新作飲もうよ〜」
せわ「うーん今日はもうちょっと自習してく! ごめんね」
麗子「うわ真面目〜。せわいつも成績優秀だもんね。天然だけど」
美波「頭だけはいいよね。抜けてるけど」
顔をしかめるせわ。
せわ「ひと言余計では」
麗子「じゃ、頑張って。また明日」
せわ「ばいばーい」
教室を出て行く二人を見送り、自習を再開する。
せわ(ここはy=2a-5で……)
うーんと唸りながら数学の問題を解いていると、上から理人の声が降ってくる。
理人「そこ違う。たぶん2a-1」
せわ「え、なんで……?」
理人「条件が『互いに素』だから、この式は両辺が等しくならないと」
せわ「あー、なるほど」
サッカー部の練習着のままの姿を見るに、部活終わりだろう。
理人「この調子だと、今回は俺の勝ちかもな」
せわ「それはどうかな? ここは間違っちゃったけど、他は結構自信あるし」
理人とせわは毎回テストの点数を勝負している。負けた方がご飯を奢る、というルールになっているのだ。ちなみにせわの全敗中。
椅子を引いて、せわの向かいに座り、頬杖を着く理人。
理人「それ解き終わったら帰ろ。一緒に」
せわ「うん。そうしよ。スタボの新作出てるらしいけど飲んでく?」
理人「有り」
理人がスマホをいじっている横で、せわは黙々と残りの問題を飲む。すると、ガラリと教室の引き戸が開く。
先生「お前らそろそろ帰れー。戸締りするぞ」
せわ「はーい」
せわ(もうそんな時間?)
窓の外を見ると、暗くなり始めている。せわは時計の針が七時を指しているのを確認した。
身支度を整えるせわと理人。荷物を持って、教室を出ようとすると、先生に呼び止められる。
先生「お前ら。この教科書準備室に運んでくれないか? 先生は今から見回り行かないといけないから」
せわ「いいですよ。遅くまでお仕事お疲れ様です!」
先生「ありがとう。朝比奈は優しいな……」
大袈裟に涙ぐむ先生。
せわ「……いえ」
理人は露骨に面倒くさそうな顔をしている。
重い教科書を二人で分けて運ぶ。廊下を歩きながら、理人が言う。
理人「お前、ほんとお人好しだよな」
せわ「そうかな? でもそれを言うなら理人も大概だよ。なんだかんだ言ってこーやって一緒に荷物運んでくれるし、私が勉強終わるの待っててくれてたのだって、夜に一人で外歩くのが心配だからでしょ?」
理人「…………」
※図星。
せわは理人を見上げて、にっこり微笑む。
せわ「理人は優しいよね。そういうとこすごく……」
理人「すごく?」
せわ「素敵だなって。……へへ」
理人「…………」
素直なせわの言葉に、理人はきまり悪そうに目を逸らした。
理人(俺が優しくすんのは、お前だけだけどな。……鈍感せわ)