でも、怖くなったんだ。会社員として普段は普通に生活しているのに、裏では詐欺に手を染めている。普通の人間のフリをして数え切れない罪を犯している。

だから、私は逃げた。詐欺の情報を匿名で警察に送り付けて、少しだけお金を拝借して、私だけは捕まらないようにこうしてドバイに逃げている。ドバイは犯罪者引き渡し条約に加盟してないからね。

「とりあえず、住むところと仕事探さないとね」

ドバイはお金持ちが集まる国だ。頑張ればきっと仕事は見つかる。日本で犯した罪をドバイでしっかり働いて、自分なりの形で償おう。そう思っていた矢先だった。

「お姉さん、観光にドバイに来たの?」

「俺たちがよかったら案内してあげるよ?定番から穴場まで!」

二人の男性が私の前に壁のように立ち塞がり、話しかけてくる。ナンパか……。面倒臭いことになったな。

「いえ、結構です」

私がそう言っても、男性二人は「俺ら暇だからさ〜」と言いながら近付いてくる。男性の一人が私の持っているキャリーケースを掴もうとし、咄嗟に触れられないように私の背後へ回す。この中にはお金が隠してあるんだから!