スイート×トキシック


 こうなった以上、初恋の彼女だって生きているかどうか分からない。

 だけど、どうして最後には殺してしまうんだろう。

(うまくいかなかった……?)

 誘拐して閉じ込めたはいいけれど、想いが伝わらなかった。
 そのことに怒ったり絶望したりして手にかけた?

『でも、芽依ちゃんが悪いんだよ? 俺の気持ち全然分かってくれないから。いまだって、真っ先に誰のこと考えたの?』

 いびつな愛情ゆえに殺したわけではなく、受け入れてもらえないことに逆上した。
 そうやって、衝動が理性を超えた結果なのかもしれない。

 いずれにしても、彼女たちはみんな被害者だ。
 十和くんの独りよがりで凶暴な恋心の犠牲になった。

 そんなことを考えながら、ハンガーのまま、かけられている服を床に落としていく。
 (またた)く間に小さな山ができあがった。

「……何してるの?」

 開けっ放しになっていたドアの戸枠部分から、追ってきたのだろう十和くんが声をかけてきた。

「捨てて欲しいの、これぜんぶ」

「え、でも芽依のために────」

「いいの、もう。そんな嘘つかないで」

 はっきりそう言ってのけると、彼は驚いたような顔をした。
 すぐに力を抜き、やわく笑う。

「……そっか、もう分かってるか」

 分かっている。
 これらは彼の罪の証。

 だけど、わたしにはもはやその罪を立証する気なんてなかった。
 捕まって欲しくない、と切に思う。

 何より過去の恋を早く忘れて欲しかった。
 自分以外の女の子の気配と共存するなんて耐えられない。

 これからはわたしがいる。
 そばにいるのは、わたしだけでいい。

 彼を傷つける負の連鎖は、わたしが断ち切ってあげるから。
 すべてを受け入れるから。

 何があっても、どんな真実でも、どんな結末でも受け止めるから。
 わたしも一緒に十字架を背負っていく。

「ねぇ、十和くん。わたしのこと好き?」

「……好きだよ」

 そう答えると、そっと部屋へ踏み込んでくる。
 カーテンの隙間から夕方の光がこぼれ落ちていた。

「芽依は?」

「わたしは……」

 一瞬迷ってから、その肩に手を添えると背伸びをする。
 顔を寄せて一瞬だけ口づけた。

「……えっ」

 よっぽど予想外の行動だったのか、十和くんは目を見張ったままうろたえる。

 その反応を見て、照れくささがあとからやってきた。
 思い出したように鼓動が速くなっていく。

「芽依、いまのは……」

「わたしの気持ち」

 小さく答えつつ目を伏せてしまうものの、十和くんの熱っぽい眼差しは逸れない。

「つまり?」

「……分かってるくせに」

 意地悪、と思いながら離れようとした瞬間、すかさず手首を掴まれる。