「わたしはどこにも行かないよ。十和くんのそばにいるって約束した」
「……ありがとう」
噛み締めるように言った彼を見つめて、そっと腕をほどく。
「────でもね、ひとつだけ。どうしても十和くんの言葉で聞いておかなきゃならないことがある」
つい怖気づいて飲み込んでしまいそうになるのを、無理にでも押し出した。
彼は「ん?」と首を傾げる。
「十和くんは……人を、殺したの?」
どうしても捨てきれなかった疑惑をぶつけた。
すぐにでも否定して欲しい、と願いながら。
(……そんなわけないよね?)
殺すわけがない。殺せるわけがない。
十和くんはそんな人じゃない。
誰より優しくて、一途で、わたしだけを見てくれて。
わたしに触れる手はいつも、壊れものを扱うみたいに丁寧で。
その手が血で汚れているとは思えない。
彼がそんな手でわたしに触れるなんて────。
「…………」
けれど、十和くんは否定してくれなかった。
その代わり肯定もしないで、表情を強張らせたまま視線を外す。
「ねぇ……答えてよ。どう考えてるの? これからのこと、とか」
「…………」
「自首、する?」
不安感を増しながら恐る恐る尋ねると、それまで沈黙を貫いていた彼がゆっくりと顔を上げた。
「何の罪で?」
惑っているようにも開き直っているようにも見える。
その答えは誰より彼自身がよく分かっているはずなのに。
(本当に殺したんだ……)
彼の犯した罪は誘拐や監禁だけじゃない。
ワンピースの彼女もほかにあった服の持ち主たちもみんな、彼が攫って、閉じ込めて、殺した。
残酷な認識が鉛みたいに重くのしかかってくる。
けれど、その結論に辿り着いても、恐怖心が真っ先に湧いてくることはなかった。
不思議と心は落ち着いている。
思ったよりも冷静に受け止められた。
「────大丈夫だよ」
余裕なさげな彼を見ていると、自然とそんな言葉がこぼれた。
それを聞いて十和くんの金縛りが解けたのが分かる。
「芽依……?」
それ以上は何も言わないまま、わたしは部屋へ戻った。
クローゼットを開けてみる。
コレクションのように並んだ服たちがいっそう凄然として見えた。
もしかすると、彼がこれまで好きになったのは、初恋の彼女とわたしだけじゃなかったのかも。
好きになった人を心の底から想って、自分だけのものにしようとして、愛して、愛し尽くしては殺してきたのかもしれない。
誰かに奪われるくらいなら自分の手で終わらせたかった、とか、こんなに愛しているのだから相手も本望だろう、なんて正当化したりして。
独占欲と支配欲、嫉妬心が強いから。
純粋な恋心や愛情と“殺意”は、彼の中では表裏一体なのかも。



