ゆったりとした微笑みを向けられ、思わず顔を隠すように布団を引き上げた。
「何で隠すの?」
「だって……起きたばっかだし。あんまり見ないで」
身支度も心の準備も全然整っていない。
「そんなの気にしなくていいよ。芽依はいつでもかわいいんだからさ」
くすくすと笑いながらわたしの髪に触れた。
嘘でもお世辞でも、十和くんに“かわいい”と褒められると心がくすぐったくなる。
布団をどけて起き上がると、ちょっと照れくさく思いながら座る。
「朝ご飯食べた?」
「あ、うん。ごめんね、本当は一緒に食べたかったんだけど」
「ううん、わたしがもっと早く起きればよかっただけだから……」
もう着替えているところを見ても、そろそろ家を出る時間なのだろう。
「トースト焼いといた。ダイニングのテーブルに置いてあるから」
十和くんはわたしの手を取りつつ、なんてことないように言った。
「え」
「あ、はちみつとかジャムとか好きに使っていいからね。あと、昨日買ったスイーツの残りと飲みものは冷蔵庫に入ってるから、それも────」
「ま、待って。いいの? そんなこと」
彼がいない間にこの部屋から出ることは、これまで一度も許されなかった。
監禁を続けようと思ったら、当然と言える。
(また、罠じゃないよね……?)
つい探るように見つめてしまうと、こともなげに頷かれた。
「うん」
「でも……」
一歩部屋を出れば、通報も脱出も簡単にできてしまう。
彼の監視もない、という前提ならばなおさら。
わたしの憂いをよそに、十和くんは吹っ切れたような表情で言う。
「昨日、芽依に言われて気づいたんだよ。俺、口では“信じてる”とか言ってたけど、本当はびびってたみたい。覚悟が足りなかったのかも」
「……覚悟?」
「そう。自分のしたことに対する、ね」
わたしの手を握ったまま彼は目を伏せる。
「俺には最初から、きみの日常を壊す資格なんてなかった。芽依の自由を奪った代償を払わないと。だからさ────」
うつむきながら唇を噛み締め、彼はそこで言葉を切った。
(わたしに結末を委ねたいの?)
通報して助けを求めるも、この家から逃げ出すも、このままここに留まるも、もうわたしの自由。
誘拐に監禁。暴力。殺人未遂。
自分のしたことを罪だと感じているのなら、わたしに選択させることがせめてもの償いだと思っているのかもしれない。
「本当の意味で信じてみたい」
彼の眼差しを真正面から受け止める。
「いまの俺にできることってそれしかないよね」
「十和くん……」
「どんなものでも、芽依の選択に従うから」



