スイート×トキシック


 高鳴る心臓が苦しいし、きっと真っ赤になっているだろう頬が熱い。
 触れた部分が痺れているみたい。

「……そのうち、ちゃんと言うから……」

「そのうち? それまで俺を不安にさせておくの?」

 苺より甘酸っぱくて切なげな、それでいてクリームより甘ったるい声で尋ねられる。

 わたしは息をついて、半分だけ観念(かんねん)した。

「もう、分かった。じゃあ────」



 部屋の電気が消えたのは初めてのことだった。
 すっかり慣れたはずの監禁部屋が、それだけで新鮮に思える。

 それぞれお風呂から上がると、ふたりでわたしの布団に入っていた。

(どうしても不安だって言うから一緒に寝ることになったけど……)

 鼓動の音、衣擦(きぬず)れの音、息遣い。
 さすがにもう手錠は外したけれど、一段と彼を近くに感じる。

 暗いのに目が慣れてきて、輪郭(りんかく)以上を捉えられるようになってきた。

 向かい合って横になったまま、十和くんは目を閉じている。

「…………」

 その整った顔をじっと見つめた。

(睫毛長いなぁ。鼻筋も綺麗。唇も……)

 (はば)むものは何もなくて、簡単に触れられる。
 無防備って罪だと思う。

 ふいに、彼がゆっくりと目を開ける。

「……なに見てるの?」

 いつもより落ち着いた声色から、すっかり心安らいでいるのが伝わってきた。

 困惑したようにわたしを追い詰め、うろたえていた様子が戻ってくる気配はない。

 わたしの隣が安心できる居場所だといいな。

「寝てるかと思った」

「さすがに早すぎ。まだ横になったばっかだよ」

 彼の声が、存在が、何だか無性に心地いい。
 (つの)っていく想いに胸が焦がれていく。

(ずっと、この時間が続けばいいのに)

 いつか彼が唱えていた儚い願望は、わたしの唯一の願いになった。

 十和くんを好きになるはずなんてないと思っていたのに。

「……芽依、かわいい」

 まっすぐ見つめていると、十和くんがいつものように甘く微笑んだ。
 そのままこちらに手が伸びてくる。

 頭を撫でられるか、頬に触れられるか、そんなことを想像しながらただ委ねていた。
 ────けれど。

「…………」

 十和くんの手は届く前にぴたりと止まった。
 不思議に思っていると、彼の瞳が戸惑うように揺れているのに気がつく。

「十和くん?」

 引っ込めた手をそのまま自身の胸に当て、逃げるように寝返りをうった。

(急にどうしたんだろう……)

 何も言わずに背を向けられ、ただただ困惑してしまう。

(わたし、何かした? 怒らせた?)

 少し怖くなってきて、推し量るように距離を詰めた。
 そっと背中に触れてみる。

 指先の感触から、彼がわずかに身を強張らせたのが分かった。

「め、芽依……」