「好きだよ、芽依」
「……うん」
「好き。本当に好き。だから……不安になる」
抱きすくめるように腕に力が込もった。
痛くはないけれど、何だか苦しい。
(ちょっと、分かった気がする)
彼はずっと片想いを続けていて、わたしはそれを拒み続けてきた。
だからこそ、心が通じ合ったところで自信を持てないでいる。
わたしから想われるはずがない、と十和くんは心のどこかで諦めているのかもしれない。
まともな罪の意識を持ち合わせていると分かったいま、なおさらありそうな可能性だった。
だったら、そう不安になるのも当然だ。
自信は不安の裏返し。
だから、きっと何度もわたしを試していた。
「……よかった」
そう呟くと、彼が意外そうに顔を上げる。
「え?」
「十和くんも不安だったんだね。わたしだけじゃなかったんだ」
繋いだ手を見つめた。
強く握り締められるほど、必要とされているみたいで嬉しくなる。
「あのね。わたし怖くないよ、十和くんのこと」
────怖くない。もう大丈夫。
“怖い”と感じてしまうのは、分からないからだと思う。
「だから何でも話して。わたしもそうするから。不安は抱え込まなくていいんだよ」
彼だってきっと同じで、分からないから怖くなる。
気持ちも恋心も愛情も、目に見えないから想像するしかなくて。
答え合わせはできないけれど、言葉を交わすことだけが手がかりなんだ。
「芽依……」
一度手をほどくと、指を絡ませるようにして握られる。
「大好き」
惜しみない告白が染みて、頬が緩んでしまった。
「わたしも────」
ついそう言いかけて、慌ててつぐんだ。
けれど、もう手遅れだった。
はっとした彼が勢いよく身体を起こして、じっと見つめてくる。
期待の込もった眼差しを煌めかせながら。
「わたしも、何?」
そう聞かれて鼓動が加速していく。
絶対に確信犯だ。
「な、何でもない……!」
火照る頬を隠したくて、動揺を誤魔化したくて、少し離れようと身体を背けた。
けれど、できなかった。
右手は彼と繋いだままだし、それが離れても手錠が逃がしてくれない。
「捕まえちゃった。残念だったね」
いたずらっぽくにやりと笑われる。
「や、離して」
「どうして? 芽依が自分で“つけて”って言ったんでしょ」
「それは……」
「それに、さっき言ってくれたじゃん、何でも話してくれるって。俺、芽依の気持ちが分かんないことが不安なんだけどなぁ」
なんてずるいんだろう。
そう言われてしまうと何も言い返せない。
「ねぇ、教えてよ」



