「ほんと……すっごい可愛いよ、芽依。お姫様みたいだね」

 ふんわりと緩くウェーブした髪をひと(ふさ)手に取り、愛しそうに言った。

 花柄ワンピースもリボンの髪飾りもパールのアクセサリーも、この場所に不似合いなほど輝いて見える。

(十和くんだって、黙ってれば王子様なのに)

 こんな奇行(きこう)に走らなければ、狂愛主義者じゃなければ、彼の想いには応えられなくてもいい友だちでいられたはずなのに。

「制服は洗っておくね。しばらくはその格好でいてよ」

 俺のために、と続けて部屋から出て行く。
 わたしと姿見(すがたみ)だけが残された。



「…………」

 ぎり、と気付けば奥歯を噛み締めていた。

 悔しさとか腹立たしさとか、そういうものより今は嫌悪感の方が強い。

 髪から、服から、十和くんと同じ香りがする。

 すぐそばにいるみたい。
 抱き締められたときと一緒だ……。

(無理。もう無理)

 リボンのバレッタを外し、勢いよく床に投げつけた。
 触れられた髪をかき混ぜる。少しでも感触を紛らわせるように。

(もう見ないで。触らないで。呼ばないで……!)

 何だか(そで)の内側も痒くなってきた。服に焼かれるように肌がぴりぴりする。
 手錠のせいで爪も立てられない。

「……っ」

 頭がおかしくなりそう。

 首を絞められているわけでもないのに、だんだん息が出来なくなってくる。

(“お姫様みたい”……?)

 震える手で裾を握り締めた。

 わたしには、地面へ降りられるほど長い髪も、外の世界を教えてくれる泥棒もいないというのに。