スイート×トキシック


 先ほどみたく囲うように手を置かれ、あまりの近さに身を逸らした。
 どきどきして、頬が熱を帯びるのを自覚する。

「答えて」

 十和くんは逆に乗り出して迫ってくる。

 どこまでも純真(じゅんしん)でまっすぐな瞳は逸らされることがない。
 彼の甘い恋心と深い愛情は、きっと地の果てまで追ってくる。

 観念(かんねん)して、口を開いた。

「……分かんない?」

 わたしはもう一度、そっと抱きついた。
 今度は隙間がぜんぶなくなるくらい、強く抱きすくめる。

「め、芽依……」

「しー」

 そう制すると、しん、と静まり返った部屋の中に、どき、どき、とわたしの速い心音が響き渡っていた。

 自分で恥ずかしくなってくるけれど、これなら証明できるかな。

「……すごい、どきどきしてる」

 わざわざ言葉にされると余計に恥ずかしい。
 かぁ、とますます顔が熱くなった。

「ねぇ、こっち向いて。顔見せて?」

「……やだ」

 絶対に無理だ。
 からかわれるに決まっている。

 首を横に振ったとき、ふと気になった。

(十和くんの心臓の音、聞きたい)

 そう思って胸に耳を当てようとしたものの、いち早く察した彼が先に動いた。

「何やってんの」

 ぐい、とあえなく引き()がされる。

「何で。ずるい」

 そう言いながら思わず見上げた顔は、わたしと同じくらい赤くなっていた。

「……許して。恥ずかしすぎて耐えらんない……」

 十和くんは手の甲で口元を覆ってあとずさる。

 染まった頬を隠すように、さっきのわたしみたいに背を向ける。
 潤んだようなその瞳を見て、つい笑みがこぼれた。

 心がくすぐったい。
 彼の前に回り込むと、じと、と恨めしそうに(にら)まれた。

「……なに笑ってんの」

「何か、嬉しくて」

 独りよがりな想いじゃなくて、一緒の気持ちなんだ。
 好きな人が自分を好きでいてくれる世界を、初めて知った。

 すべてが鮮やかに色づき、(きら)めいているように感じられる。

 こんなにも世界の見え方がちがうんだ。
 こんなにも、満ち足りて幸せなんだ。



 すっかり日が落ちた頃、部屋でひとりクローゼットを開けた。
 運び込まれた服は残されたまま。

(きっと何もない)

 半ばそう願うような気持ちで、1着ずつ丁寧に改めていく。

(十和くんに限って……)

 彼が狂った殺人犯だとか、そんなわけがないのだから。