スイート×トキシック


 わたしは不器用すぎて、恋が下手で、空回りしては傷ついてばかりいた。

 うまく伝わらないもどかしさが辛かった。

 最後にはいつもわたしが彼らを不幸にしているみたいで、責められている気がして苦しかった。

 誰にも必要とされたことなんてない。
 分かってもらえなかった。

 十和くんが初めてだ。
 こんなにもわたしを想って、愛してくれたのは。

 あんなに怖くて気味が悪かったはずの狂気的な恋心に、まさか救われるなんて。

「────嬉しい」

 素直にそう思えて、やわく笑った。

 わたししか映らない瞳、甘い言葉を(ささや)く唇、(いつく)しむように触れる手。

 身に余るほどの十和くんの想いが、わたしを包み込んでくれた。
 春の陽射しみたいに、柔らかくてあたたかい。

『芽依には俺しかいないんだから』

 いつかの言葉が蘇る。

 理解してくれるのも、受け入れてくれるのも、ここまで大切に想ってくれるのも、確かに十和くんしかいない。

 わたしの存在意義と価値を、彼が与えてくれた。

「芽依……」

 染み入るように呼んだ彼が再び手を伸ばすと、そっとわたしの頬に添えられる。

 ちゃんと、気づいていた。
 その眼差しがあのときみたいに、熱っぽくも慎重なことに。

 気持ちがあふれて止まないけれど、わたしを優先してくれている、その思いやりに。

 そっと目を閉じる。
 彼の想いを受け入れてみたくなった。

 近づく気配に、衣擦(きぬず)れの音に、鼓動が痛いほど加速する。

 ────唇が重なった。

 以前のような、ただ強引なだけの一方的なキスとは全然ちがう。
 そこに、ちゃんとわたしがいる。

「……っ」

 何だかまた、泣きそうになってしまう。

 気遣うようにすぐに離れた彼と至近距離で目が合う。
 照れ隠しのように笑えば、十和くんもそうした。

「……かわいい」

「は、俺が? それこっちのセリフだから」

 わたしの頭を撫でて笑う。
 こうやって彼に触れられると、何だか心地いい。



 ────夕方頃、わたしはキッチンに立っていた。

 ボウルの中のクッキーの生地を混ぜるわたしを、カウンター越しに十和くんが眺めている。

「芽依ってお菓子作るの好きだよね。教室でもよく友だちに配ってたし」

「うん、甘いものが好きだからその延長で……。十和くんにもあげたことあったっけ?」

 作りすぎたものを適当に配っていたから、誰に渡したか定かじゃない。

「1回だけもらったよ。ブラウニー、っていうんだっけ、あれ」

「あ……思い出した。そういえばそうだったね」

「なんだ、深い意味なかったんだ。俺だけ特別なのかなって期待したのに」