彼のどんな選択も合理的に思えてくる。
わたしが理由を探してあてはめてしまっているだけかもしれないけれど、納得できるほどの理由があるのもまた事実で。
切り崩せると思ったのに、どうしてあんなに余裕なんだろう。
ぞっとする。
何にしても最終的に殺してしまえばいい、と考えているからだとしたら。
十和くんは両手に服を抱えて戻ってきた。
とはいえ、その量はクローゼットで見た分と相違ない。
あのときは暗かったから、ものまですべて同じかと聞かれれば自信はないけれど。
「どれにする? どれも似合いそうだなぁ」
十和くんは空っぽのクローゼットを開けた。
ハンガーごと持ってきた服を1着ずつパイプにかけていく。
(何か……ばらばらだ)
服に統一感がない。
誰かひとりのことを思って選んだとしたら、テイストなり色なりある程度のまとまりがあるはず。
けれど、ここにある服にはそれがない。
系統も色味も入り交じっていて、寄せ集めといった感じ。
(これぜんぶ……持ち主が殺されていたら)
10着を超えるか超えないか、といったところだ。
そんなに殺していたら、さすがに事件が表沙汰になっているだろう。
(じゃあ、間違ってるのはその推測?)
分からない。
彼を前にすると、うまく考えがまとまらなくなる。
だけど、慎重に見極めなきゃいけない。
閉ざされたこの狭い世界で、何を、そして誰を信じるべきか。
秒読みは止まってくれないから。
────十和くんが選んだものを大人しく着ることにした。
シフォン素材のブラウスにリボンのついたジャンパースカート。
クラシックでガーリーな格好だけれど、この服の持ち主がどうなったのかが気がかりで、正直袖を通すのにも抵抗があった。
けれど、心を無にして耐えるほかにない。
わたしの目的は着せ替え人形になることじゃない。
「芽依、かわいい。やっぱそういう格好が似合うね」
ドアを開けて、着替えたわたしを見るなり彼は嬉しそうに言った。
「……いいよ、お世辞は」
「お世辞なんか言わないって。普段からそういう格好してたじゃん。好きなんでしょ?」
「えっ」
どうして知っているのか、なんて疑問に思うのはもはや野暮だ。
当然ながら一緒に出かけたことはないけれど、私服を知っているということは、休日のわたしをどこかから見ていたのだろう。
誘拐に至る前から、つきまとっていたにちがいない。
「いつから、わたしのこと……?」
見ていたのか。好きだったのか。



