スイート×トキシック


 十和くんが、好きになった人を殺してしまうような狂った人物だという推測────もしかすると“好きになった人”なんて(くく)りはないのかも。

 相手は誰だっていい。
 偶然選ばれた人がターゲットになるのだとしたら?

 どうでもいい人。嫌いな人。
 時には好きな人でさえ、その餌食(えじき)になってきたのかもしれない。

 ワンピースの持ち主が、彼の初恋相手とはまた別の人なのだとしたら。

 彼女は十和くんにとってどうでもいいか嫌いな人で、たまたま標的にされてしまっただけなのかもしれない。

 そう思ったときには立ち上がっていた。
 握り締めた手でドアを叩く。

「十和くん!」

 こんなふうに呼びつけるなんて、ここへ来てから初めてのことだ。

 最初は彼が来るたび憂鬱(ゆううつ)になっていたのに、自分から呼ぶ日が来るなんて思いもしなかった。

「どうしたの? 何かあった?」

 飛んできてくれた彼は、驚いたように言いながら鍵とドアを開ける。

「ううん、ごめん……。ちょっとお願いがあるんだけど」

「お願い? なに?」

「服ってこれ以外にはもうない? もしあるなら見せて欲しいなって思って」

 クローゼットにあった女性ものの服。
 この家にある分だけ、同じ目に遭った子がいるということかもしれない。

 あのワンピースと同じように血がついていたりしたら、十和くんの罪を明かす証拠になりうる。

 ややあって、彼は微笑んだ。

「あるよ。また着せ替え人形になってくれるの?」

「あ……うん」

 不本意ながら割り切って頷くと、十和くんの表情が晴れる。

「本当? じゃあ、あるだけ持ってきてあげる。ちょっと待ってて」

 再びドアが閉まって、ひとりになる。

(やっぱりおかしい……)

 こと服に関しては、何だか詰めが甘い。
 わたしが疑っていることを知らないから、油断しているのかもしれないけれど。

 この家にある女性ものの服はわたしのために用意した、というのが彼の言い分のはず。

 それならわたしから言い出さなくても、あのワンピースみたいに自ら進んで持ってくるのが自然ではないだろうか。

 ほかにもあるなら、わたしが制服に着替えた時点でほかの服を勧めるはず。
 本当にわたしのために用意したのなら。

(それとも、それもわたしへの気遣いだった?)

 当初、頑として制服から着替えようとしなかったから。

 ワンピースに着替えさせたこと自体も無理()いだった、と負い目を感じていたのかも。

(分かんないなぁ……)