「……ってことは、芽依も俺のこと好きなの?」
「そんなわけないでしょ! ばかなこと言わないで」
わたしの答えなんて分かりきっていたかのように、十和くんはただ肩をすくめて笑った。
今度また同じことを聞かれたら、そのときは何て答えるだろう。
空になった皿を彼が片付けに向かうと、ようやくひとりになった。
壁に背中を預けるようにして膝を抱える。
『……俺が好きになったのは、その人だけ』
十和くんの言葉が何度も頭の中を巡った。
伝えられなかったのは、叶わぬ恋だったから。
(かなり、思い入れがありそうだったな)
いまはわたしだけだと言っていたけれど、彼女を忘れてはいないように見えた。
(わたしは初恋なんて覚えてないのに)
わたしの“好き”は上書き保存されていくけれど、十和くんはちがうんだ。
そういうものなのだろうか。
もやもやと黒い煙のようなものが胸の内に立ち込めていく気がした。
「……わたし、何をそんなに気にしてるんだろう」
彼の恋愛事情を聞いたのは、その本性を探って、わたしが殺される可能性を見極めるためだったはず。
いつの間にか道を逸れていた。
あくまで彼女が生きているなら、この話はもうおしまいでいい。
それなのに、そればかりが気にかかって仕方ない。
(わたしにそんな価値があるのかな)
それほどに好きだった初恋相手を上回るような価値が、わたしなんかにあるのか分からない。
わたしのどこがいいんだろう。
前にも聞いたけれど、考えるほど不思議だった。
「……あれ?」
ふいに萌芽した違和感が、すり抜ける前に引っかかった。
────そうだ、大事なことを忘れていた。
床の上に横たわる、畳んだワンピース。
手を伸ばして広げてみる。
(これは結局、誰のものなの?)
十和くんが過去に好きになった人のものだと思っていた。
そして、彼女は殺されてしまったのではないか、と。
だけど十和くんは、これまで好きになったのは初恋相手とわたしだけだと言っていた。
彼女は生きている、とも。
(わたしの推測が間違ってる?)
それとも、彼がまた嘘をついている?
何かを隠していることは間違いない。
そうでなければ、嘘をつく理由もない。
(もし、かして)
絡まった糸をほどくように違和感に向き合うと、はたとある可能性にたどり着いた。



