出られるかもしれない可能性が目の前にぶら下がってきて、なかなか寝つけなかった。
布団の下に隠したフォークの存在を何度も確かめながら、ようやく眠りに落ちて。
夢が終わらないうちに夜が明けた。
朝の支度とご飯をつつがなく終え、制服姿の十和くんと相対する。
「じゃあ、芽依。そろそろ行くけど」
「うん、行ってらっしゃい」
早く、と気持ちが急いてそわそわしてしまう。
十和くんが帰ってくる頃には、きっとわたしはもうここにはいないだろう。
「行ってきまーす。いい子にしててね」
ふわ、と抱き寄せられた。
そのまま後頭部を撫でられる、というおまけつきで。
頭を撫でるという仕草は同じでも、確かに“子ども扱い”とは言えないようなやり方だ。
先生を好きな気持ちがなかったら騙されていたかも。
いくらでも近づいて触れればいい。
どうせ、これで最後なのだから。
(そう思えば我慢出来る……)
早く、先生に会いたい。
鼓動が速まった。
それもただの願望じゃなくなるんだ。
わたしを離した十和くんが部屋から出ていき、ドアを閉めた。
かちゃ、と鍵が閉められる。
その足音が離れていくと、ドアに張りついて耳を澄ませた。
玄関のドアの音。鍵の音。
十和くんが家から出て行った。
(よし……)
この部屋を出たら、まず電話を探そう。
わたしのスマホでも固定電話でも何でもいい。
すぐに警察に通報する。
がんじがらめにされた玄関の様子を思い出した。
あれじゃ自力では出られないから。
(ん? でも)
はたと閃く。
(そういえば、あの補助錠……)
鍵は内側にあって、外からでは操作出来ない。
家の中にいるのは閉じ込められたわたしだけ。
ということは、彼が家を出るときは補助錠もチェーンもかかっていないんじゃ……?
(そうじゃないと十和くんも家に入れないから)
些細な、それでいてこの上なく重要な閃きだった。
それならこの部屋のドアが開けば、すぐにでも外へ出られる。
(でも、わたしの荷物は……)
回収したい。回収しておくべきだ。
特にスマホは────。
そんなことを考えながら、布団の下に手を入れた。
隠しておいたフォークを掴む。