(知らない……?)
自分じゃなくて、殺した彼女の持ちものだったから?
いずれにしても十和くんは何か嘘をついている。
それだけは分かる。
本当に、彼は殺人犯なのだろうか。
好きになった相手を最終的には殺してしまうような。
(でも、確かに少しもためらってなかった)
少なくとも暴力に関しては、何の迷いもないように見えた。
だからって殺しもそうなのかと言えば、それはまた別な気もするけれど。
「────ねぇ、芽依の初恋ってどんなだったの?」
「えっ」
突然の問いかけに驚くと、彼はくすくす笑った。
「そう聞いたのは芽依でしょ。俺だけなんてずるいじゃん。芽依のことも知りたいのに、昨日聞きそびれちゃったし」
「……わたしのことは何でも知ってるんじゃなかったの?」
「そんな意地悪言わないで教えてよー」
すねたように言われて、何だか力が抜けてしまう。
殺人犯なんじゃないか、なんて突飛な疑惑への緊張感を忘れてしまうほど。
「うーん、どんなだったかなぁ」
「恥ずかしがらなくていいよ」
「そういうわけじゃないんだけど……あんまり覚えてないや。小さい頃の“好き”って、どこからが恋か分かんないし」
肩をすくめるものの、彼は不満そうだった。
気に留めることなく「十和くんは?」と尋ね返す。
「“伝えられなかった”って言ってたけど、それって……」
言い終わらないうちにはたとひらめく。
もしかしたら、相手はもうこの世にいないのかもしれない。
十和くんが手にかけたという可能性もあるけれど、だとしたら「伝えられなかった」というのは不自然に思える。
伝えることも叶わないうちに、彼女が何らかの理由で亡くなってしまったのだとしたら。
(わたし、また傷を……)
「ごめん、こんなこと聞いちゃって! 十和くんに悲しいお別れを思い出させるだけなのに」
自分の浅はかさとデリカシーのなさが嫌になる。
また、何にも見えなくなっていた。
「……ん? 芽依、なに言ってるの?」
十和くんが不思議そうな顔になる。
「えっ。だって、亡くなってるんじゃ……」
「ないない!」
びっくりしたように手を振って否定すると、彼はおかしそうに笑った。
「何でそうなったの」
「……生きてるの?」
「もちろん。勝手に殺さないであげてよ」
色々な意味で驚いて呆気に取られてしまう。
それなら逆に失礼な勘違いをしていたかもしれないけれど、それを謝ることすら失念していた。
(生きてる……)
それが本当だとすると、十和くんが好きになった相手を最終的には殺してしまうような、サイコな狂愛主義者である可能性は低い?



