十和くんはわたしを見るなり、目を見張ったまま動かなくなってしまった。
そんなふうに見つめられると居心地が悪い。
「……期待はずれ?」
「ううん、その逆。かわいすぎてびっくりしてる」
沈黙に耐えかねて尋ねると、ストレートに褒められてしまった。
何だかますます居心地が悪くなる。
「よかった、思った通り似合う。芽依のために用意しといたんだよ」
「……そうなの」
やっぱり、と思った。
だからって別に嬉しくもないけれど。
「ねぇ、せっかくだからもっとかわいくしていい?」
「え……何するの?」
「きみは何にもしなくていいよ。ただ“お人形”になって、俺に任せといて」
それから夕食の前まで、十和くんは楽しそうにわたしの髪を巻いたり編んだりしていた。
その手つきにおぼつかなさは感じられなくて、器用にまとめられた結び目にリボンのバレッタがはめ込まれる。
用意したのは服だけじゃなかったのだろう。
わたしは彼の気が済むまで大人しく従っていた。
面倒ではあったけれど、害はなかったから。
それに、もう分かっていた。
抵抗してもどうせ敵わないし、そうするほど環境や状況が厳しくなっていくことを。
「芽依……すっごいかわいいよ。お姫さまみたいだね」
ふんわりとゆるくウェーブした髪をひと房手に取り、うっとり愛しそうに言う。
花柄のワンピースもリボンの髪飾りもパールのアクセサリーも、この場所に不似合いなほど輝いて見える。
彼だけのお城で、彼のために生かされていることがひどく虚しい。
本当に“お姫さま”なら、地面へ降りられるほどの長い髪が欲しかった。
「制服は洗っておくね。しばらくはその格好でいてよ。ひとりじめしたいからさ」
姿見を残したまま、十和くんが部屋から出ていく。
「……っ」
ぎゅう、と強く両手を握り締めた。
悔しさとか腹立たしさとか、いまはそういうものより嫌悪感の方が強い。
髪から、服から、十和くんと同じ香りがする。
すぐそばにいるみたい。
抱き締められたときと同じ。
(……もう無理)
リボンのバレッタを外すと、勢いよく床に投げつけた。
触れられた髪をかき混ぜる。少しでも感触を紛らわせるように。
(もう見ないで。触らないで。呼ばないで……!)
必要以上に構われたくない。
ここにいるしかないのなら、ただそう思う。
勝手に想われて、騙されて、散々な目に遭った。
“好き”という気持ちが人を地獄に突き落とすこともあるなんて知らなかった。
もうこれ以上、傷つきたくない。
「ほっといてよ……」
何もしないから、十和くんも何もしないで。
わたしに期待しないで。



