怪訝な表情を浮かべていると、とろけるほど柔らかい笑顔を向けられる。
「ぜんぶ好き」
さすがに動揺して、頬が熱を帯びた。
こんなにもためらいなく、ストレートに想いを告げられたのは初めてだ。
「そのかわいい顔も、綺麗な髪も、背が低くて華奢なところも、ふわふわして見えるのに芯があるところも、一途で粘り強いところも、表情がころころ変わるところも……本当、かわいい」
十和くんは心地よさげに目を細める。
「ぜーんぶ好きだよ。大好き」
わたしなんかのことが本当に好きなのかな、誰でもよかったんじゃないのかな、なんてどこかで疑っていただけに、いっそう驚いてしまう。
そんなふうに見ていてくれたんだ。
あまりにも具体的な言葉が並んだから、これ以上疑う余地もない。
十和くんの想いは本物なんだ。
「何でそんなこと聞いたの?」
「だって、信じられなくて。十和くんがわたしなんかを好きになるなんて……」
思わずそう返すと、彼は少しむっとした。
「“なんか”ってやめてよ。俺が好きになった芽依ちゃんを、自分で勝手に否定しないで」
まっすぐな眼差しも優しい言葉も、すんなりと心に浸透してきて戸惑う。
────わたしは、自分に自信なんてなかった。
誰かを好きになっても、いつもうまくいかなかった。
いつも否定されてきた。
先生への気持ちに気づいたとき、今度こそは頑張ろう、と意気込んだ矢先にぶち壊してきたのは紛れもなく十和くんだ。
それなのに、いまはそんな彼の言葉に救われている。
(おかしいよ……)
彼は誘拐犯で、わたしから色々な自由を奪って、たくさん傷つけてきた。
恨むべき存在なのに、どうしてこうも心を揺さぶられているのだろう。
「……俺さ、芽依ちゃんのことなら何でも知ってるんだよ。俺以外に好きな人がいることも」
どきりと心臓が跳ねた。
十和くんがわたしをこんなふうに閉じ込めてしまうほどの独占欲を持ち合わせているのなら、その“好きな人”が先生だとバレたら、逆恨みで先生まで危険な目に遭うかもしれない。
とっさに恐ろしい考えがよぎり、血の気が引いた。
けれど、彼は困ったような表情で続ける。
「誰かまでは知らないけどね。知りたくもないから」
「え……」
「だってそうでしょ。わざわざ嫌なもの見なくたって、そんな気持ち、俺が上書きしちゃえばいいだけ」
十和くんのことだから、何もかもを完璧に把握していると思った。
意外だったけれど、そのあとに続けられた言葉はこの上なく彼らしい。
最初に言っていた通り、本当にわたしの心を得るつもりでいるんだ。
得られると確信しているんだ。



