スイート×トキシック

     ◇



 数日のうちに、十和くんの言っていた通り色々なものが部屋に運び込まれた。

 ふかふかの布団に小さなテーブル、クッションやブランケット、ぬいぐるみ。
 スキンケア用品なんかの日用品の類や、小説といった娯楽まで。

 硬い床にはラグも敷かれ、部屋の快適さはかなり増した。
 だけど、長居はしたくない。

 がちゃがちゃ、とふいに一瞬騒がしくなって、ぼんやりしていたわたしの意識は覚醒した。

 十和くんが帰ってきた。
 身体を起こし、部屋のドアを見つめる。

 この瞬間はいつも緊張で息が詰まった。
 彼の機嫌次第では、何をされるか分かったものではないから。

 否応なしにそんな不安がついて回る。
 “王さま”が絶対のこの場所には、理屈なんて通用しない。

「ただいまー」

 部屋のドアを開けた彼の表情も声色も穏やかで、かなり機嫌がよさそうだった。

「おかえり、十和くん」

 内心ほっとしながら、彼の望む言葉をかける。
 案の定、柔らかい微笑みが返ってきた。

「はい、芽依ちゃんにお土産だよ」

 がさ、と音を立てながらテーブルに置かれた袋を覗き込む。
 お菓子やスイーツ、紅茶のペットボトルが目に入った。

 見慣れたパッケージに安心してしまう。
 隔離(かくり)された世界にいても、現実と繋がっているような気がした。

「あと今日の夜ご飯はこれ食べていいよー」

 彼がそう言いながらお菓子やスイーツの袋をどけると、わたしの好きなクリームパスタが顔を覗かせる。

「本当に? いいの……?」

「もちろん」

 信じられないような待遇(たいぐう)の向上だった。
 何かいいことでもあったのかもしれない。

「ありがとう、十和くん」

  わたしは笑顔を向けた。
 最初の頃よりぎこちなさはないけれど、ちょっとわざとらしかったかもしれない。

 感情のこもっていない笑顔を作るのも、本心をひた隠しにするのも、いつの間にか慣れてしまうものなのだと悲しくなってくる。

「…………」

 十和くんは何も言わず、じっとわたしを見つめていた。

(な、なに……?)

 彼とまともに話せるようになっても、根づいた恐怖と嫌悪感から怯えてしまう。

 常に息を殺しながら、超えてはいけないラインを見極めるのに必死だった。

「芽依ちゃんって、そんなふうに笑うっけ」

 ややあってこぼされたひとことは、ますます読めないものだった。
 怒りや冷たさを含んでいるわけじゃないからこそ、わたしの反応を試していると分かる。

 彼の意に沿わない何かを企んでいること、笑顔が嘘だということ、見えないように閉じ込めたはずの本心を疑われている?

「……変、だった?」

 頷くのも白々しいような気がして、困ったように笑いながら聞き返す。