(そんなこと、あるの……?)
明らかに奇妙で不自然と言わざるを得ない。
ぞっとした。
“誰かを閉じ込めるため”という理由と目的であれば、説明がついてしまう事実に。
「…………」
ドアに耳を押し当て、息を殺した。
1分以上そうしていたけれど、何の音も聞こえてこなかった。
閉じ込められてからいままで、わたしたち以外に人の気配はまったくないと感じていたけれど、やっぱり間違いないと思う。
十和くんはここでひとり暮らしをしている。
この洋室ひと間を取っても、お手洗いやお風呂を取っても、かなり新しく綺麗なものだった。
とはいえ、わたしを閉じ込めるためにつけ焼き刃的に借りたわけでもないだろう。
彼の使っている空間とは切り離されているせいで、生活感を感じられないというだけで。
(監禁に関しては、穴がないようにとことん手を回してる十和くんのことだし……)
自宅とは別に監禁目的の家があったとして、そこへ出入りしているところを目撃される方が危険だと思う。
涼しい顔で登校までしてのけているわけだし、十和くんの図太い神経を思えば、ここが彼の自宅だと結論づける方が腑に落ちる。
いずれにしても、抜け出すチャンスはある。
ひとり暮らしなら、彼が学校へ行っている間は隙だらけ。
十和くんにとって想定外の出来事が起きたとしても、すぐに対処できない。
もう一度取っ手を掴むと、力を込めて思いきり引いた。
鍵を壊す勢いで強く引っ張ったけれど、無情にもびくともしない。
「だめかぁ……」
このドアを無理やり突破できるような道具もないし、その方法は現実的ではないような気がする。
やっぱり、チャンスはこの部屋を出るタイミングだろう。
それなら拘束も解いてもらえる。
だけど、と一度失敗したことを思い返して苦い気持ちになる。
あんな強硬手段じゃだめだ。
確かな機会がいつか巡ってくるはず。
いまはとにかく十和くんの機嫌を損ねないように、大人しく耐え続けるしかない。
────部屋の片隅で膝を抱える。
いまが何時なのかさえ分からなくて、絶えず不安に苛まれた。
人知れず攫われて、知らないところに閉じ込められて、世間から置き去りにされているような気がしてくる。
わたしひとり消えたところで、何にも影響なんてない。
世界は変わらず廻っていく。
そんな当たり前の事実が、深くひどく追い詰めてくる。
“孤独”という奈落へ突き落とされるみたいに。
(ひとりぼっちだ……)
いくら叫んでもわたしの声は外へ聞こえないし、外の音もわたしには聞こえない。
誰も気づいてなんてくれない。
確かに、ここにいるのに────。



