スイート×トキシック


 自販機に売っている、苺ミルクのペットボトルが2本。

「ごめん。実は芽依ちゃんが残ってること知ってて戻ってきた。労いってことで、1本あげる」

 どこか照れくさそうな笑みは、これまでに見たどれとも色を(こと)にしていた。

「いいの?」

「うん。好きでしょ、これ」

「ありがとう。でも、どうして知ってるの?」

 その通りだし嬉しいのだけれど、彼とそんな話をした覚えはない。

「人づてに聞いただけ。好きな人のことは何でも知りたいと思うじゃん」

 そう言って自分のペットボトルを(あお)った彼の表情に、いつもの親しみやすさと人懐こさが戻った。
 その整った顔立ちと明るい性格が人目を引く、クラスの人気者。

「本気?」

 思わず小さく笑いながらキャップに手をかける。

 少し緩いような気がした。
 気を遣って彼が開けてくれたのかもしれない。

 苺ミルクに口をつけると、まろやかな甘い風味と味が広がって自然と心がほどけていく。

 彼が思わせぶりなことを言うのはいつものことで、いちいち取り合っていられない。
 どうしてわたしに構うんだろう。

「俺はいつでも本気だよ。いまだって、芽依ちゃんとふたりで話せてすげー嬉しいと思ってる」

「そういうことは本当に好きな人に言いなよ」

「……だから、言ってんじゃん」

 思わず、日誌に落とした視線を再びもたげる。
 真剣味を帯びた声色を受け、さすがに苦笑が消えた。

 朝倉くんは少しも揺らがない眼差しでわたしを捉えていた。

「……えー? もう。朝倉くん、わたしのこと好きすぎ」

 つい動揺してしまったのを誤魔化すように、その瞳から逃れるように、もう一度苦く笑って冗談にしてしまおうと思った。

 それなのに、彼は否定してくれなかった。

「そうだよ。俺、本当に芽依ちゃんのことが好き」

 真剣な眼差しと熱の込もったトーンは、その本気さを訴えていた。
 どき、と図らずも心臓が跳ねる。

「友だちだなんて思ってない。そんなふうに諦められない」

「朝倉、くん……」

「……分かってる。困らせてるよね」

 ひたすらに戸惑っていると、ふと彼が儚げに表情を緩めた。
 お陰で空気ごと和らぐけれど、心音はおさまらないまま。

「でも、迷って欲しいって言ったら……怒る?」

 瞳が揺らいだ自覚があった。
 とっさに流せないほど飲み込まれていた。

「ねぇ、一緒に帰ろ。もっと芽依ちゃんのこと知りたい」

 何も言えないまま、1分にも1時間にも思える静寂に包まれて、やがて唐突にそれは破られた。

日下(くさか)……って、おまえもいたのか」