「……だけど、邪魔になるならいつでも殺していいよ」
「え」
「わたしを利用したって切り捨てたっていい。十和くんに……好きな人に幸せでいて欲しいから」
「芽依……」
「十和くんの幸せのためなら、何も怖くない。心の底から好きだから」
踏み込んだ彼女が、もたれかかるように身を寄せてくる。
「それがわたしの愛。死ぬまで……ううん、死んでも離れない」
くす、と思わず笑いがこぼれた。
「……重いなぁ」
「それは最初から分かってたでしょ?」
俺を見上げる芽依がゆったりと笑った。
温もりから、香りから、その存在感をひしひしと実感する。
俺が守るべきは“未来”じゃなくて“いま”だ。
いま、確かに目の前にいる彼女を大切にしないと。
「確かにね。俺も人のこと言えないし」
なんて、肩をすくめて笑った。
この先どうなるかなんて分からない。
不確かな未来には、いつ牙を剥かれてもおかしくない。
きっと、毎朝目覚めるたび不安になると思う。
この世界が壊れないか。芽依を失わないか。
「……芽依、本当にいいの? 俺といると日常なんて一生返ってこないよ」
「いらない。十和くんのいない日常なんて」
一秒の間も置かずに答えが返ってくる。
俺は彼女の背に腕を回し、その存在を確かめるように強く抱き締めた。
「じゃあ、もう離さない。何があっても。芽依のぜんぶ俺がもらうから、ずっと俺だけの芽依でいてね」
そっと顎をすくって口づけた。
今度は不安なんて湧いてこないで、心が、身体が、甘く痺れる。
ふたりの世界を守ること────それだけが俺にできる芽依への贖罪なのかもしれない。
そんな思いもどこかにあった。
けれど、彼女のそばにいたいのは、彼女をこのままひとりじめしていたいのは、芽依が好きで愛しくてたまらないから。
もう孤独に苛まれることもない。
愛に飢えることもない。
芽依が俺を変えてくれた。
彼女だけが本当の俺を見て、受け入れてくれた。
誰にも邪魔させない。
ここはふたりだけの世界だ。
(一緒に堕ちよっか、芽依)
どこまでもどこまでも、堕ちて溺れる。
それが俺たちの幸せなら、いつか、夢が弾けて終わるまで。
ifストーリー『ふたりの世界』
【完】



