誰かとすれ違うたび、寿命が縮むような思いをした。

 気付かれるはずがないと分かっていても、可能性はゼロじゃないから。

 (おく)することなく進んでいく十和くんとともに辿り着いたのはコンビニだった。
 白い光が眩しい。

「いらっしゃいませー」

 ドアを(くぐ)ると、入店音と店員さんの気の抜けたような声に出迎えられる。

 心臓が早鐘(はやがね)を打つ。
 破裂してしまうのではないかと思うくらい緊張していた。

 どうやらその目には、幸いにも“普通の客”として映ったみたいだ。

 店内にはほかにも数人の客の姿がある。

 当たり前かもしれないが、わたしたちを特別(いぶか)しむ様子はない。

(大丈夫、だよね)

 スイーツの並ぶ陳列棚(ちんれつだな)の前で、十和くんはやっと足を止めた。

 普段通りの落ち着いた様子を見て、わたしにも少しずつ平常心が戻ってくる。

「行こ、って……コンビニのこと?」

「そうだよー」

 あっさり頷かれたが、首を傾げてしまう。

(あの流れでどうしてコンビニ?)

 尋ねる前に彼が答えた。

「今の俺にはさ、芽依の理想のデートのうち1個くらいしか叶えてあげられないけど」

 手に取ったスイーツをひとつ差し出される。
 受け取って見ると、いちご味のクリームケーキだった。

「甘くて美味しいもの食べようよ、一緒に」

「!」

(一緒に────)

 いられるだけで充分なのに。
 そうやって甘やかすから、つい欲張りになってしまう。

「うん……!」

 でも、少しくらいなら甘えていいのかな。
 今はその一途(いちず)な恋心と優しい愛情に溺れていたい。

 彼との生活を守りたい。
 この先もずっと終わらせたくない。

 そのためにわたしが出来ることは限られている。

 一番大切なのは、十和くんを信じることだ。

 何があっても疑わない。
 怪しさを見出すことがそもそも間違いなのだ。

 わたしたちの心は鏡なのだから、彼からの全幅(ぜんぷく)の信頼と愛情にわたしも(こた)えないといけない。

(それが……“好き”ってことだよね?)

 この生活を(おびや)かすような不穏な可能性や都合の悪いことは、ぜんぶ忘れてしまおう。

 見ないふり。気付かないふり。
 幸せとは、きっとそうやって守るものなんだろう。