スイート×トキシック


 十和の態度は不自然なものだし、看過(かんか)できない痕跡まで残っている始末。
 信じるためには、疑ってかかるしかないのかもしれない。

 表情の強張りを自覚しながら、中身を流しに捨てた。



     ◇



 授業の入っていない時間、雑務(ざつむ)もそこそこに職員室を出た。

 音を立てないよう教室へ忍び込む。
 いまは体育の授業中で誰もいないとはいえ、見つかったらただでは済まない。

 十和の席に歩み寄り、荷物を机の上に載せる。

(もしこの中にスペアキーがあったら……)

 そんなことを考えながら、鞄の中を漁ってくまなく探した。

 財布を開けたとき、思わぬものを見つけた。
 錠剤のシートだ。

 そこに書かれた名前で検索をかけてみると、睡眠薬であることが分かった。
 しかも、かなり強力なものだ。

「何でこんなもの……」

 そう呟き、はたと思い至る。

 気丈に振る舞っているが、本当は満足に眠ることもできないほど、日下が心配なのかもしれない。

 無理をしていないか気にかけながら、シートを元に戻しておく。

 結局、十和の鞄からスペアキーは見つからなかった。



 放課後になり、教室内の人影が(まば)らになる。
 十和がひとりになったのを見計らい、その机の方へ向かった。

「あ、先生ー」

 鞄を手に立ち上がりかけた彼は、俺に気づくとゆったりと座り直す。
 俺は前の席に腰を下ろした。

「何か話あった?」

「……おまえ、眠れてないのか?」

 何でもないことのように尋ねたかったのに、図らずも声が硬くなる。
 十和が不思議そうに瞬いた。

「日下が心配で?」

「え? んー、確かに心配だけど……眠れないってほどじゃないかな」

 浮かべた笑みは弱々しい。
 わざわざそんなこと、嘘をつく必要もない。

 日下の件に無頓着(むとんちゃく)なのではなく、現実逃避的な心理が働いているのかもしれない。
 防衛本能として。

(だが、それならあの睡眠薬は?)

 もや、と胸の内に(かすみ)がかかる。
 腑に落ちない気持ちをどうにかおさえ込み、立ち上がった。

「……そうか。ならよかった」

 少なくともちゃんと眠れているのであれば、それに越したことはない。

「気をつけて帰れよ」

「うん、ありがと。じゃあねー」



 職員室へ戻るなり、先輩の教員に「宇佐美先生」と呼びかけられた。

 そのそばには、日下の件で動いてくれている刑事と警察官の姿がある。
 彼らに会釈すると、先輩がさっと寄ってきた。

「どうしたんですか?」