想像していたよりずっと元気だ。
てっきり日下のことが心配で消沈していると思っていたが。
だとしても、これほど暢気に構えていられるものなのだろうか。
「日下のこと……何か知らないか」
大丈夫か、と案じるつもりが、気づけばそう尋ねていた。
車内で見かけた苺ミルクのペットボトルが脳裏をちらつく。
十和の顔から笑顔が消える。
「……芽依ちゃんのこと?」
「ああ。日下が行方不明になった日の放課後、おまえと一緒にいたよな」
もしかすると、俺の知らない“その後”を知っているかもしれない。
(いや……)
知っているなら、真っ先に言うだろう。
手がかりを惜しむはずがない。
十和が日下を心配していないわけがないのだから。
「んー。確かに一緒にいたけど、学校出る前に別れちゃったんだよね」
「ふたりで帰ったんじゃないのか?」
「ううん、帰ってない。あ、何なら確かめてみてよ。校門前って防犯カメラあるんでしょ?」
確かに、一緒に帰ったのだとしたら記録に残っているはずだ。
防犯カメラなら警察も確認しているはずだが、特に何の糸口も掴めていないようだった。
十和は嘘をついていないのだろう。
(……当たり前か)
日下に関して手がかりを得られなかったことには落胆してしまうが、十和の関与が決定的にならずに済んだことに安堵する。
「……そうだな。日下は下校中に何かに巻き込まれたのかも」
シューズロッカーを開けた。
ここを開けることに抵抗や恐怖がなくなっていることに気がつく。
そういえば、封筒が入っていることがなくなった。
(いつの間に……?)
それどころではない状況に見舞われ、すっかり忘れ去っていた。
ストーカーの気配は気づかないうちにどこかへ遠ざかったようだ。
本当に、十和が宣言通り何とかしてくれたということなのだろうか。
いずれにしても、これで日下の捜索に集中できる。
友人たちのことも気がかりだし、それも確かめたいところだが────。
車に乗り込むと、ドリンクホルダーのペットボトルが目に入った。
そうだった。
これや車のことも十和に聞くべきだった。
その疑念を解消しない限り、覚えた違和感はきっと消えない。
「…………」
自宅へ帰り着くと、キッチンでペットボトルを眺める。
これほど気にかかるなら、いまからでも聞けばいい。
普段なら迷わずそうするだろうが、事が事だけに踏ん切りがつかない。



