スイート×トキシック




 部屋に戻って目隠しが外されると、再び足首をまとめ上げられた。

「じゃあ、そろそろ行かなきゃ」

「ねぇ、待って……!」

 立ち上がった朝倉くんを思わず呼び止める。
 速まる拍動がわたしの呼吸を浅くしていく。

「お願い、助けて」

「ん?」

「ここから出して。誰にも言わないから! お願い、こんなのわたしは嫌……!」

 縋るようにその脚を掴んだものの、わたしを見下ろす彼の表情は冷ややかだった。
 す、と脚を引くと悠々と屈む。

「……!」

 唐突に頬が痺れて、一拍遅れて打たれたのだと気がついた。

 信じられない思いで見つめると、不機嫌そうな彼に強く髪を掴まれる。

「痛……っ」

「なに言ってんの?」

 これまでに聞いたことがない、冷たくて低い声。
 ひどく怒っているようだった。

「ここは俺ときみだけの世界だよ。誰にも邪魔させない。そう言ったよね」

 温度をなくしていた顔に表情が戻ると、恍惚(こうこつ)としてうっとり頬を染める。

「諦めて。どうせ、きみは俺を好きになるから」

「や、だ。離して……!」

 必死でその腕を引き剥がそうとするけれど、まるで敵わない。

 そんなわけない、ありえない、と突き返したい言葉は声にならず、わたしの心の内で恨めしい気持ちとして蓄積していく。

「……仕方ないなぁ、もう」

 そう呟いたかと思うと、乱暴に手を離した。
 床に倒れ込んだわたしは憎々しげに彼を睨みつける。

 おもむろにポケットに手を入れた彼は何か、小さな小瓶のようなものを取り出した。
 青色に透き通った液体で満たされている。

「え……?」

「芽依ちゃんのせいだからね。暴れないでよ?」

 蓋を開けて口に含むと、そのままわたしに覆いかぶさってきた。

「なに……!? やめ……っ」

 手錠のかけられた両手首は頭上で押さえ込まれ、もう一方の手に頬を掴まれる。

 抵抗しようにも余地がなくて、ただただ涙がこぼれ落ちていった。

 強引に塞がれた唇の隙間から流れ込んできた何かを、反射的に飲み込んでしまう。
 息が苦しくて、また涙があふれた。

 溺れてしまいそう────。

「……けほっ」

「あーあ。お預けって言ったけど、まさかこんな形になるなんてね」

 ようやく解放してくれたかと思うと、再び立ち上がった朝倉くんがそう呟いた。

 わたしはむせてしまいながら必死で呼吸を整える。
 いったい、何を飲まされたんだろう。