「……そうか。そういうこともあるよな」
「ごめんね、せっかく来てくれたのに」
「いや、突然来た俺が悪かった。これだけでも渡しておく」
「ありがと」
買いもの袋を受け取った十和は、いつものように笑った。
それをじっと見据えつつ単刀直入に切り出す。
「……おまえ、俺の車使ったか?」
弾かれたように顔を上げる。
はっとしたその表情は、心当たりがあることを物語っていた。
「……バレたかぁ。ちゃんと元通りにしたつもりだったのにな」
肩をすくめつつも悪びれない十和に眉をひそめる。
「おい、分かってるのか? 無免許なんだし事故でも起こしたら────」
「分かってるって。ごめんごめん」
俺はため息をつき、てのひらを差し出した。
「スペアキー返せ」
「あー……ごめん、なくした」
「はぁ?」
「ごめん! 本当にごめんなさい」
そんなばかな、と思ったものの、十和は神妙な様子で平謝りしている。
そういう顔をされると俺は弱い。
分かっていても怒れなくなる。
「一生懸命探すから! あ、手紙のこともちゃんと調べてるよ」
“手紙”という単語に、図らずも身体が強張った。
「その件なんだが……」
手紙のみならず、写真までもが入れられていたことを伝える。
「盗撮? ……それってもうストーカーじゃない?」
眉を寄せつつ、怪訝そうに十和が言う。
ストーカー。
何だか一気に不穏さが増す響きだ。
「いっそのこと警察に……」
「ちょっと待って。それは得策じゃないと思うなぁ」
「何でだ?」
「だって、そんなことしたら逃げられちゃうよ」
何を懸念しているのかいまいち分からなかった。
逃げられる、ということは手紙や写真を送りつけられることがなくなるのだろうが、それならその方がいいに決まっている。
そのために警察を頼るのではないか。
「ストーカーさんだってそんなんで引き下がるほど単純じゃないだろうし、そしたら今度は直接アプローチしてくるかもよ」
「え?」
「逆上して逆恨みとかされたら、よっぽどめんどくさいと思わない?」
(確かに……)
十和の言い分には一理あるように思えた。
得体の知れないストーカーが直接接触してくると考えたら、その方がよっぽど恐ろしい。
「じゃあ、俺はどうすれば……」
「大丈夫! 俺が何とかするからさ、兄貴は何も心配しないで」
向けられた笑顔は自信に満ちていて、この上なく心強い。
だが、どこか圧を感じるような強い感情が秘められている気がする。



