とっさによぎると、不快感と嫌悪感が肌をなぞって粟立った。
(いや、待て。さすがにないだろ)
キーは鞄の中に入れていたし、その鞄はずっと職員室に置いてあった。
生徒が容易に持ち出せるわけがない。
絶対にほかの教員の目に触れる。
それ以外で俺の荷物に触れる隙があったのは、友人か十和くらいだ。
そんなことを考えつつ、ダッシュボードを開けてみる。
入れっぱなしにしていたスペアキーがなくなっていた。
訝しく思いながらスマホを取り出し、友人に電話をかけてみる。
彼を疑っているわけではないが、確かめておけば可能性を絞り込める。
『もしもしー』
「もしもし、海斗。聞きたいことがあるんだが……」
『おお、どうした? いまから彼女とデートだから手短に頼むな』
声のほかにごそごそと物音がしている。
どうやら通話をスピーカーに切り替えて準備しているらしい。
「ああ、悪い。この前飲んだ日、俺の車乗ったりしたか?」
『え、してないけど。酒飲んでたし』
「……そうだよな」
『おう。でも、何で? 何かあったか?』
普段通りの明るい声を聞き、俺もいくらか平静を取り戻すことができた。
「いや、気にするな。それより変わったことはないか」
『変わったことー?』
うーん、と考え込む。
『特にないと思うけど。あ、もしかしてあいつらのことか?』
未だに連絡のつかない友人ふたりのこと。
紗奈を捜そうと躍起になっていた穂乃香ともコンタクトが取れなくなった。
さすがに不自然と言わざるを得ない。
『何だよ、おまえまで深刻ぶって。大丈夫だって! 仲直りしてふたりで旅行でも行ってんじゃね?』
「そうか……?」
確かにこれまでも毎日頻繁に連絡を取り合っていたわけではないし、行動を逐一報告し合う義理もない。
気にしすぎだと言われればそうかもしれないが、何ともなかったのならひとことくらいあってもいいのに。
『とりあえず切るぞ。もう行かねぇとだから』
「ああ、悪かったな。また」
通話を終え、ひっそりと息をつく。
こうなった以上、車を動かしたのは────。
いつものようにスーパーに寄ってから十和の家を訪ねた。
インターホンを鳴らす。
気だるげにドアを開けた彼は、驚いたような顔をした。
「あれ……」
「連絡もなしに悪いな」
いつも通り上がろうとしたものの、なぜか阻まれる。
伸ばした手を戸枠に置き、進路を塞いできた。
「ごめん、今日はちょっと」
困ったように苦笑するも、その先に言葉が続けられる気配はない。



