認めたら負けな気がする。
 素直に頷くのも恥ずかしい。十和くんの思うつぼだろう。

「ど、どうかなぁ?」

 わたしは誤魔化すように笑いつつ、その腕から逃れた。

 手にしていた服をクローゼットに戻すために背を向けるが、がっしりと肩を掴まれてしまった。

 くるりと身体が反転するなり、とん、と押されて背中に壁が当たる。
 思わずワンピースを取り落とした。

 目の前に迫る彼に驚いて釘づけになる。

 空いた方の手をわたしのすぐ横の壁につき、じっと見つめてきた。

「逃げるの禁止」

 どきどきした。
 あまりに真剣な眼差しに。

 それでいて照れくさそうで、わたしも顔が熱いのを自覚する。

「答えて」

 どこまでも純真(じゅんしん)でまっすぐな瞳は逸らされることがない。
 彼の甘い恋心と深い愛情は、きっと地の果てまで追ってくる。

 観念(かんねん)して、口を開いた。

「……分かんない?」

 そう首を傾げれば、十和くんは推し量るように(またた)く。

 わたしはもう一度、そっと抱きついた。
 隙間がぜんぶなくなるくらい、強く抱きすくめる。

「め、芽依」

「しー」

 困惑したような彼を制する。

 しん、と静まり返った部屋の中に、どき、どき、とわたしの速い心音が響き渡っていた。

 自分で恥ずかしくなってくるけれど、これなら気持ちを証明出来るかな……?

「……凄い、どきどきしてる」

 わざわざ言葉にされると余計に恥ずかしい。
 かぁ、と頬がますます熱を帯びた。

「ねぇ、こっち向いて。顔見せて?」

「……やだ」

 絶対に無理だ。
 からかわれるに決まっている。

 ふるふると首を横に振ったとき、ふと気になった。

(十和くんの心臓の音、聞きたい)

 そう思って胸に耳を当てようとしたが、いち早く察した彼が先に動いた。

「何やってんの」

 ぐい、と引き()がされる。

「何で。ずるい」

 そう言いながら思わず見上げた顔は、わたしと同じくらい赤くなっていた。

「……許して。恥ずかし過ぎて耐えらんない……」

 十和くんは手の甲で口元を覆い、後ずさった。

 赤くなった頬を隠すように、さっきのわたしみたいに背を向ける。
 潤んだようなその瞳を見て、つい笑みがこぼれた。

 心がくすぐったい。
 ふふ、と笑いながら彼の前に回り込む。

「……なに笑ってんの」

 じと、と恨めしそうに(にら)まれた。

「何か……嬉しくて」

 独りよがりな想いじゃない。
 一緒の気持ちなんだ。

 好きな人が自分を好きでいてくれる世界を、わたしは初めて知った。

 すべてが鮮やかに色づき、(きら)めいているように感じられる。
 こんなにも世界の見え方が違うんだ。

 こんなにも、満たされて幸せなんだ────。