スイート×トキシック

     ◇



 すっかり日が落ちた頃、片手にスーパーの袋を()げてインターホンを鳴らした。

「はーい、待ってたよ」

 慌ただしい足音がしてすぐにドアが開くと、十和が爽やかな笑顔で出迎えてくれる。
 その言葉通り、どこか嬉しそうに見えた。

 俺たちは兄弟だが互いにひとり暮らしだ。
 住んでいる家こそちがうものの、たびたびこうして一緒に夕食をとることがあった。

 大抵、俺が適当に材料を買っていって十和が作る。
 こいつは案外、料理がうまかったりする。

「んー……じゃあ今日は生姜(しょうが)焼きと唐揚げにしよ。腹減ったし」

 買いもの袋の中を覗いた十和がひとりごちた。

「手伝うか?」

「いい、疲れてるでしょ? リビングで待っててよ」

 そう言われ、労わってくれた十和の厚意に大人しく甘えさせてもらうことにする。



「え、手紙?」

 ダイニングでテーブルを囲むと、箸を止めた十和が困惑したように聞き返してきた。

「ああ……。最近、俺のシューズロッカーに入れられてるんだ。差出人不明の手紙が」

「へー、どんなの?」

 少しためらったものの、結局立ち上がった。
 脱いだ上着のポケットから今日受け取ったものを取り出して渡す。

 生徒という立場にある十和なら、もしかしたら何か知っているかもしれない。

「……ラブレターだね」

 封を剥がし、ざっと目を通した彼は苦く言う。

「しかも生徒から? 禁断の恋じゃん」

「……茶化すな。俺も困ってるんだ」

 くす、と笑った十和は便箋(びんせん)を折り畳んで封筒へ戻した。

「じゃあ、俺が何とかしてあげるよ。これ以上エスカレートする前にさ」

「できるのか?」

「任せといて。……ちょっとやることあるから、それが終わってからになるけど」

 十和がそう答えたとき、ふいにテーブルの上に置いていた俺のスマホが震える。

 穂乃香(ほのか)からの着信だった。

 彼女とはこの間、居酒屋で会ったのが最後だが、音信不通の友人を案ずるようなメッセージがそのあとも何度か届いていた。

「悪い、ちょっと」

 ────断ってから廊下に出ると、“応答”の表示をタップする。

「もしもし」

『紗奈から連絡あった?』

 焦燥(しょうそう)を隠しきれていない、不安に満ちた声色だった。

「いや」

『そっか、わたしにもまだ。……大丈夫かな』

「そうだな……」

 生返事に(いきどお)ったのか、一瞬電話口の向こうが静かになる。

『何それ、心配じゃないの? もう1週間も音沙汰ないんだよ』