「やっと見つけたよ、姫」

「出た! 吸血鬼っ!」


私は、中庭に落ちていた木の棒を振り回す。


「私に近づかないで!」

「ちょっとちょっと、危ないって。それに、俺のことをそんなオバケみたいに言わないでよ、亜実ちゃん」

「え。なんで私の名前を……」

「そりゃあ、自分の好きな子の名前くらい知ってるよ。中城 亜実ちゃん」


パチッとウインクする彼。


「好きな子って……嘘でしょ?」


持っていた木の棒が、地面に落ちる。


今まで人間の男の子にすら、好意を持たれたことなんてなかったのに。


「嘘じゃないよ、本当。あ、美味そうだね。それ、俺にちょうだい」


いつの間にか私の隣に座っていた彼が、私のお弁当から唐揚げをつまんで口に入れた。


「うーん。美味しい」

「血以外の物も、口にするんだ」

「そりゃあそうだよ。俺を何だと思ってるの?」

「吸血鬼」

「うん。まあ、そうなんだけど」


苦笑いしながら吸血鬼くんが、今度はお弁当から卵焼きを取ってしまう。


「わ、この卵焼きもめっちゃ美味しい」

「ねぇ。それであなたは、何しにここに来たの?」

「亜実ちゃんに、俺と専属契約のお願いに来たんだよ」