「……はい?」


まだバクバクしている胸を手で押さえながら、私はゆっくりと身体を起こす。


制服のネクタイの色からして、この人は私と同じ1年生みたいだけど。


「血って、何を言ってるの?」


やだな、この人。なんか怖い。


「ああ、ごめんごめん。俺、実はヴァンパイアなんだけど……」

「ヴァンパイア?」

「そ。人の生き血を吸う、吸血鬼ってやつ」


男の子の口元から、鋭い牙が見える。


「吸血鬼って……」


そんなの、現実の世界にいるの?


ファンタジーとか、そういう物語の中だけの存在なんじゃ……。


「俺、ずっとキミのことを探してたんだよ。
やっと見つけた。俺の姫」


ひ、姫!?


「ほんと、キミは可愛いなあ」


私のほうへと伸びてきた彼の手を、私は咄嗟に払いのける。


「さっきから何を言ってるんですか! か、からかわないでください!」


そう言うと、私は慌てて保健室を出ていった。