罪は流れて、雨粒にわらう




「ははは、こんな偶然あるんだねー。まさかここで佐山ちゃんとばったり会うとか」
「……ぐ、偶然、ですか」
「え、なに。まさか……君のあとをついて来たとか思ったりした?」


 いやいやさすがにそれは、とミヤケンは眉を八の字にする。
 私は、はっとしてミヤケンを見上げた。今のは確実に私に非がある。


「ごめんなさい、違うんです。そんなこと……思っていないです。だけど、どうしてここに?」
「友達のお見舞いだよ。ほら、あそこにいる(じい)さん」


 体を半回転させたミヤケンは、通路に向かって顎をしゃくる。
 そこには祖母と近い年齢と思われる男性が立っていた。私たちを見て微笑ましそうにしながら。


「……ともだち」
「そう、俺の友達。名前は勝男さん」
「勝男さん!?」


 思わず大声を出してしまう。
 ミヤケンが口にした名前が、ついさきほど祖母から聞いた名前とまったく同じだったから。


「え、そこまで驚く? たしかに勝男さんもいい歳だけど。仲良くなるのに年齢なんて――」
「そ、そうじゃなくて……ですね。もしかして宮くん、あちらの勝男さんに、鶴を折って贈ったりとか、しました?」
「つるー?」


 隣の椅子に座っていたあっちゃんが、鶴に反応した。

 私が手こずり、ミヤケンが完成させた鶴は、いまやあっちゃんの小さな手もとにある。

 ミヤケンはその鶴を一瞥したあと、心底意外そうに「佐山ちゃん、なんで知ってんの?」と言った。



 あっちゃんの母親が休憩所に戻ってきたタイミングで、私とミヤケン、そして勝男さんは祖母の病室に向かった。


「しいちゃんのお友達が、まさか勝男さんともお友達だったなんてねぇ」
「いやはや、不思議な縁ですなぁ」


 本当に奇妙な偶然だった。

 詳しく話を聞いてみると、勝男さんは今年の三月まで美風高校の非常勤講師だったという。
 科目は美術、ミヤケンと知り合いだったのも、三月までは学校で顔を合わせていたからだった。

 しかし胃の不調により、今は入院生活を送っている。
 そんな勝男さんのもとに、ミヤケンは足繁く通っていた。


「勝男さん、最近院内で友達ができたって喜んでてさ。俺にも紹介してくれるっていって、さっきはこの病室に向かってる最中だったんだ」


 祖母と勝男さんは、演歌の話で盛り上がっていた。
 二人を扉の前に立って遠目ににこにこと眺めながら、ミヤケンは私に説明を続ける。


「旧校舎裏の花壇。あれも勝男さんが校長に許可とって育て始めたやつでね。そのまま放置も可哀想だし、俺が引き継いで水とかやってんの」


 なんだか意想外の連続だった。
 彼の評判からはかけ離れた行動の数々。けれどそれは、誰が聞いても善あるおこないだと首を縦にするだろう。