罪は流れて、雨粒にわらう





 私の声に反応した彼は横にふっと顔を向け、首をもたげる。
 その瞳が、大きく見開かれた。


「あれ、佐山ちゃん? やっぱり佐山ちゃんだ」


 途端にミヤケンの顔が明るくなる。
 その場に如雨露を置いて近づいてくるミヤケンからは、先ほどの不思議な空気感が消えていた。


「あはは、驚いた。どうしてここに?」

「友林先生から、聞きました。宮くんが、ここにいるって」

「ああー、友っちね。でも、なんで? 俺になんか用?」

「昨日のことで――」

「昨日のこと! そうだよ佐山ちゃん大丈夫? 急に目の前で倒れるから俺かなり焦ってさー。よくわかんないけど校門に佐山ちゃんのお母さんいるし、一応車の中に運んだんだけど、そのあとどうなったのか気になってたんだよね」


 あまりの饒舌さに、私の言葉は完璧に遮られていた。
 
「でも学校に来てるってことは、とりあえず元気になったんだ。いやーよかったよ、ほんとに。だけど一体なにが原因であんなことに――」
「み、宮くん。ちょっといいですか」


 再びマシンガントークになる前に、私は待ってと止める。
 無意識に両手を前に突き出し、体全体でストップを表現してしまった。


「うん、どうかした? つーか、この手面白いねー」
「ちょっ」


 あろうことか、ミヤケンは私の両手に自分の両手を合わせてきた。
 ぱちんと、小さなハイタッチの音が鳴る。


「あ、昨日も思ったけどさ、佐山ちゃんって身長は普通だけどだいぶ軽くない? 手もこんなに細くて小さい。まあ、女の子の手って感じで好きだけど」


 そのまま握られそうになった手を、私は全力で回避した。


「あの……いきなり触らないでもらえますか」


 なに、なんなのこの人。
 距離感は近いし、妙に好意的だし、反応に困る。

 倒れた私を抱えてくれたのは彼で、その感謝は変わらないけれど、今のは黙っていられなかった。