罪は流れて、雨粒にわらう





「あ……それで、先生に聞きたいことがあるんですけど」
「どうした?」
「昨日、私が倒れたときに保健室にいた人、誰だかわかりますか?」


 嘔吐したことの謝罪と、体に掛けてくれていたというカーディガンを返したかった。
 そのために詳細を聞いてみれば、友林先生は絵に描いたような困り顔を作る。


「あー、そうだな。ひとりは、三年の和氣(わき)だ。職員室に来て佐山のことを知らせてくれたのは彼女だ。あとひとりは、宮だよ」

「宮……その人も、先輩ですか?」

「いや、違う。隣のクラスの、宮謙斗」

「宮謙斗……って、もしかして、ミヤケン?」


 上擦った声で聞き返すと、友林先生は「ミヤケンだな」と言ってかすかに笑った。


 昨日の朝にあったホームルームで話題に出ていたミヤケン。
 西棟の多目的室を授業などの使用時以外は開かずの間にしてしまったかもしれない男、ミヤケン。

 保健室で対面した男子の顔と、噂話で耳にするミヤケンを脳内で照らし合わせる。


「保健室にいたあの人が、あのミヤケンなんですか!?」
「保健室にいたあの人が、あのミヤケンだな」


 まさにオウム返しのような受け答えを繰り返す私と友林先生。
 ミヤケンと聞いてからの私の反応が気になったのか、友林先生は軽く眉をひそめた。


「まさか佐山、宮となにかあったのか?」
「なにか……」


 意味ありげに言われて真っ先に考えたのは、西棟の多目的室のことだ。思ったよりも未練が強かったようで、過剰になっている。
 しかし、友林先生が口にした「なにか」は、私の考えるものとははるかに違っていた。