この世界には、たくさんの幸福の裏に、たくさんの悲劇が隠れている。


 傷つくことが怖くて、諦めている人。

 無傷なふりをして、自分を守っている人。

 心が押し潰されそうな経験から、辛くて立ち止まってしまう人も、きっといるはずで。


 私みたいに、数年経っても乗り越えられない人は、どれだけいるんだろう。


 たとえば、自分のせい()で大切な人を失ってしまったとき。

 いったいどうすれば、乗り越えてゆけるのだろうか。

 私はまだ……その答えを知らないでいる。

 

 ――あの日から、雨は残酷な記憶を呼び起こすだけの存在だった。

 雨粒のひとつひとつが、無慈悲に心を揺さぶる。忘れてはいけない戦慄が、何度も何度も脳裏の奥深くで繰り返して、あの日に引きずり込んだ。

『……よかった、無事で……い、ちゃん』

 雨はこの世界で一番、嫌い。
 幼なじみが死んだ日も、ひどい雨だった。

 降募る水滴にまとわりつく、陰気な臭い。
 アスファルトを叩きつける音が、耳を劈く。


『……どう、して』

 私は容赦ない雨粒に打たれながら、視界が血に染る光景に、泣き叫ぶことしかできなかった。