モモイロセカイ

保健室とネームプレートがかかっていることを確認して、モモはカラカラと静かにドアを開ける。

中には女性の保険医が一人待機していた。
2530番のようなほわほわした雰囲気はなくどちらかと言えば少し硬い雰囲気だが、いかにも仕事が出来そうな人だ。

いくつか設置されているベットにはカーテンが掛かっており、そこに誰が寝ているか、はたまた誰かが寝ているのかも外から見ただけでは分からない仕様となっている。

「あら、どうしたの?怪我?」

「えっと、夕日居る…ますか?
飛鳥夕日、です」

危ない。
敬語が抜けそうになり慌てて言い直す。

言葉を日々使う中でもあまり敬語に触れる機会が無かったモモは、敬語を学んだのもつい最近のことなのだ。
ですますにつける活用が難しくてよく苦戦している。

「ちょっとー、貴女彼の追っかけなの?
授業抜け出してきちゃダメでしょ?」

心配そうに、保健室に入ってきたモモに近付いてきた保険医だが、モモの口から夕日を探していると出てきた瞬間にその顔が呆れたように歪んだ。

授業をサボってまで夕日を探しているのはモモが悪いと思うので、モモは素直にしょぼくれている。

「う、ごめんなさい。
…夕日来てませんか?」

「ダメ、言わないわ。
あの子はもう本当に…。
貴女にも言っておくんだけど、この、保健室のベッドを汚さないでくれるかしら」

保険医はモモを押し出すと、授業に戻りなさいねと声をかけドアを閉めてしまった。

ベッドには誰がいるのかの確認どころか、一歩たりとも近付かせて貰えなかった。
モモの完全敗北だった。

最後の捨て台詞のようにアドレナリンと共に吐き出された言葉には、やけに恨みのようなものが込められているような気がしたが、あの保険医には夕日と何か因縁があったのだろうか。