モモイロセカイ

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モモが出ていった後の教室。

大方の雰囲気はモモが出ていく前と変わらず和気藹々としているが、教室の後ろ端辺りの席、つまりモモが去り後に残された2人の雰囲気は、先程までの雰囲気がまるで嘘のように張り詰めているように感じられる。

直人は最後まで、なんとかモモを止めようとしていたが彼にしては珍しく言葉が思いつかなかったらしく伸ばしていた手を力無く落とした。

「ふざけんな、何を提案してくれてんだ!!夕日が何してるか大方分かってんだろ!!」

モモに何を見せるつもりだと直人は小声で、だが明らかに怒気を含んだ声で奈子に詰め寄る。

だが奈子はそんな直人に動揺した素振りもなく両手を肩の辺りまでひょいと上げ、余裕そうな表情だ。

「知ってるよ?」

「は?!」

「だからー、知ってるって。
夕日様がどこかの空き教室でセックスしてるんでしょ?」

確信的に発されたその直球な言葉に直人は思わず言葉を飲み込んだ。

モモは知らないだろうが、夕日は確かに持て余した性欲を学校で発散させていた。
モモが学校に通うようになるため、これからは学校でも抱けなくなるなと冗談で笑いあったこともあった。
おそらくはモモが生徒達に囲まれたことで、自分が居なくてもモモは変わらず日常を送っていくのだろうかなどと考えネガティブになって抜け出したのだろうとは思う。

保健室で寝ているだけだといいのだが、この教室に夕日のセフレである女子生徒の姿が見当たらないのでその線は限りなく薄い。

「…ッ、ならなんで!!」

直人もこの怒りを彼女に押し付けるのは理不尽であるとわかっている。
奈子にモモと夕日の関係を取り持つ義理も何もないのだから当たり前だ。ただ気になるならと助言したに過ぎないというのに。

直人は、それでも夕日には幸せになってほしいと願っている。
そして、今のところ夕日を幸せにできるのはモモしかいないこともわかっている。

だからこそモモに見捨てられるようなことは隠したかった。