モモイロセカイ

ギリリと、感情を殺すように噛み締められた歯にも、ジワリと口内に感じる血の味に顔を顰めたことにも。

ただホルモンの揺らぎを感じ、どうしたのだろうと夕日を見つめてみても、彼はモモの視線を誤魔化し、取り繕うかのようにモモの頭にキスを落とすのだから。

モモは軽く夕日の頬にキスを返すと、近付いてきている女子生徒に向き直った。

「目が合ったねモモちゃん、よろしくー！」

かなりフレンドリーな性格らしいその子は、夕日とモモの掛け合いなどは気にも留めず一直線にモモに声を掛ける。

女の子は奈子(なこ)という名前であるらしい。

「私、転校生が来るって聞いてワクワクしてたからモモちゃんと仲良くなれそうで嬉しいな！」
「モモも仲良くなりたい！」

奈子以外の女子生徒も何人もモモの周りを囲み自己紹介をしてくる。

いつしかモモの周りは人で溢れ、夕日の姿が見えなくなっていた。

「今までどこの学校行ってたの？」
「うーん、あの病院の…」

「あ、もしかして病院の手前にあるあそこ？」

そうかもしれないと、モモは答え方が分からない質問に曖昧に返す。

メンバーからはひたすらに、モモが病院に軟禁されていたことは知られてはならない、この能力は危なくなった時以外は使ってはいけないと耳にタコができるぐらいに言われた。

だからこれはセーフだ。
モモはしっかりと誤魔化せている。