モモイロセカイ

モモに教室にいる生徒のほとんどの視線が集まり、モモは驚いて固まった。
いや正確にはモモと、モモの横に立っている夕日に目が向いているのだろうか。

「あー、お前らも察している通りの転校生だー。
仲良くしてやれよー」

興味なさげに視線を地面に向けて立っている夕日に、一人の女子生徒が目を丸くしながらガタガタと大きく音を立てて椅子から立ち上がる。

「え、ちょっ、先生!夕日様はなんで?!」
「あー、なんだ?
保護者…ではないのか?」

担任は夕日に向かって問いかける。

そんな時、モモは担任の話はそっちのけで生徒の顔を見渡していた。

朝日が眠たそうにしている。
直人はモモに向け顎を上げてみせ、フッと笑った。
華はモモを見ていないようでひたすら机の木目を指でなぞっていた。
華の隣の席には、あの狐のような下っ端の東もいる。

みんな同じクラスなんだと思うと、モモは嬉しくなって笑った。

担任から話を投げられた夕日は、少し斜め上に視線を向け考えるとモモと目を合わし意味深にニヤリと笑う。
どこか悪戯な少年を思わせるような笑みであり、普段では見せない珍しい表情を目の当たりにしたクラスメイトが幾人か息を飲む音が聞こえる。

「…好きに想像しとけば?」

夕日の声が聞こえるや否や、キャー!と歓声だか悲鳴だか分からない声が夕日の声をかき消すかのように教室に響く。

叫ばれることに慣れた様子の夕日は何も反応せず、ただモモがおぉ、と反応を見せ感心するだけだった。

歓声が鎮まるにつれ、なんだか一部からモモに向ける視線が厳しくなったような気がする。
チラチラとその生徒を気にしていると、明らかにアドレナリンの代謝が増えているためきっと気のせいではない。

モモはまだ教室に入ってから一言も話していないのだが、だからこそ彼らは何に対して怒っているのだろうかとわからなかった。
思い返せば随分と前、夕日に拾われた時点のモモを睨んだあの女の人の目と似ているかもしれない。

でもきっとそれはモモが原因で嫌われたわけではないのだと思う。

「モモ…、ううん、天野百です!
これからお世話になります!」

モモはこれから世話になる予定のクラスメイトを見渡しニッコリと笑った。