校長からジッと見られ、天野百と呼ばれたモモはパッと笑顔になって頷く。

天野、あまの…。華に貰った名前。

てっきり夕日がくれると思っていたのだが、まさか華がモモに家族の名前をくれるとは思ってもいなかった。
呼ばれるだけ本当に名前をくれたんだと実感が増し、モモの嬉しいが高まっていく。

「そこの飛鳥弟からも話は聞いている。
まさかアイツが珍しく俺に強請(ねだ)ってきたかと思ったら、自分が保護している女を俺の学園に通わせてやってほしい、だと」

夕日がモモのために校長にお願いしてくれていたことは本人から聞いたため知っている。
モモはこの校長がモモに何を言いたいのかを上手く読み取れずに首を傾げた。

校長は視線を夕日に向けてはいるが、夕日をアイツと呼ぶなどからモモに話しかけているのだということはわかる。

ふと気になってモモの一歩後ろに控えている夕日の顔をチラリと見ると、夕日は今までに見たことがないぐらいに虚無というか、死んだ魚を思わせる目をしていた。

モモは今何も見なかったことにした。

「健気だと思わないか?
いつもならもう俺に噛みついて部屋を出て行くだろうに、天野百、お前のために我慢している」

「…そうなの?我慢してるの?」

モモが夕日を振り返って問うと、夕日は無言で口角を上げモモの頭をポンポンと撫でる。

夕日からはそこまでコルチゾールが感じられないため、このやり取りがストレスになっている訳では無いことにモモはひとまず安心した。

「…まさかお前のそんな表情を見る日が来るとは」

目を細め楽しそうに校長は言う。

モモが夕日を振り返っても、夕日の表情に特に変わった所は見られない。
その表情をモモには見せてくれないのだろうかと、モモは少しむくれて見せた。

「可愛い。
そんなに俺の表情見たかった?」

「見たかった」

「嬉しい。けどダメ。
見せたらモモは、きっと俺から逃げるから」

夕日はまるで、目の前にいるモモが愛おしくてたまらないというような、誰もを蕩けさせるような甘い笑みを浮かべている。