モモイロセカイ

いきなりの事だった。

少女が連れ帰られるのを止める者があった。
少女の肩に回していたオジサンの腕が外され、少女は軽く後ろに押される。

肩から温もりが離れたところで、少女の心のモヤモヤが霧散した。

少女は不思議そうに首を傾げ心臓の辺りに手を当てる。

「?なぁにこれ?」
「ん?ちょっと待っててね」

特に誰に当てた訳でもない少女の独り言に青年は律儀に返し、胸を手を当ててジッとしている少女の頭を軽く撫でてやる。

2603番にもやられたそれに、少女は不思議そうに頭を抑える。

少女は青年を目で追おうとしてピキリと固まった。

ドサリと大きな音がして、オジサンが文字通り飛んでいく。青年によって蹴られたのだ。
人の多い場所であるのに、少女とオジサン、そして現れた青年の周りには不自然に人がいなかった。

「きゃー!!春馬様ーっ!!」

少女たちを囲んで野次馬している女の一部が大きく完成を上げている。
少女はその迫力にヒュッと息を飲んだ。

「こーら、ダメでしょう?いかにも未成年な子家に連れ込もうとしちゃ。
君も危ない、よ……?あれ?」

青年は後ろにいるはずの少女を振り返ろうとして唖然とする。

そこに少女はいなかった。

少女は逃げた。どこにそんな体力を残していたのだろうか。人の流れを掻き分けながら、少女はひたすらに走る。

捕まえられそうになったら逃げろと2603番も言っていた。
あの人躊躇いなく蹴ってた、きっと怖い人。だから多分今がその時だ。

心臓がバクバクと鼓動する。

「はぁ……はぁっ……」

ずっと走っていた。
周りに人が誰も居なくなっていたところで、ようやく少女は走るのを辞め、しゃがみこみ興奮している細胞を落ち着かせていく。

「…肩触られた。ゾワゾワ?……うーん、あれは悪い人?」

どこへ向かっているのかもわからない。

なんとか落ち着いたため、少女は立ち上がった。